女性とアルコール依存症(38/38)家族への助言2

女性とアルコール依存症アルコール依存症, ジェンダー

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(3)『孤立しないで家族会に出席して下さい』

千代美の母親は、本人への対応の仕方をある酒害者家族会で教えられた。
酒害者、特に女性の酒害者を抱えた家族は、ひどく恥ずかしい思いをさせられ、隣り近所とも孤立しがちになる。
そのことが一層、本人の飲酒問題に注意を向けさせることになり、注意したり、叱ったり、監視したり、要するに本人を子供扱いして問題をこじらせてしまうのである。

(4)『本人を子供扱いしたり、役割を奪ったりしないで下さい』

たとえ本人に飲酒の問題があるにせよ、一人前の女性から、母親の役割を奪ったり、妻の役割を奪ったりはできないはずである。
しかし得てしてこうしたことが起こり得るのだ。

なまじ健康で活力のある親がついていると、娘の酒害をみかねて、孫をひき取ったり、夫の世話をしたりしてしまう。
こうした行為は、ひとり立ちして歩くことによって成り立つ本人の回復を妨げるのみならず、本人にまた新たな喪失体験を強制することになって彼女を崖のふちに追い込むことになる。

(5)『本人の欠陥をあげつらうよりも、自分自身に注意を向け、自分を変えて行くように努めて下さい』

繰り返しになるが、たとえ家族であっても、本人になり変わって、本人の行動を修正することはできない。
家族にできるのは、家族自身の行動修正なのである。
自分が夫として、父として、母として本人に対していたその対しかたを点検し、必要なら本人の自立の助けになる方向に変えて行くことだ。

(6)『本人の振り回しに乗らないで下さい』

以上のことが実行できるようになると、本人のいちいちの言動に振り回されなくなる。
2〜3日飲まなかったといって大喜びしたり、また飲みだしたと絶望することもなくなる。そして本人の問題行動の根にある、家族への不信感、それを拭おうとするための試し行動の意味が理解できるようになってくる。

(7)『言ったことは必ず実行し、実行でぎないことは言わないようにして下さい』

酒害者に振り回されている家族では、言葉がひとり歩きして、表現は、エスカレートし、言葉の持つ本来の重味が消えている。
「もう絶対に飲まない」という酒害者自身の”嘘“は「今度飲んだら絶対に離婚だ」という家族の側の脅しの嘘に対応しているのである。
家族内で言葉が本来の力を取り戻している場合にこそ、治療者との間の精神療法も着実な進展を見せる。

(8)『入院治療に過度な期待を持ってはいけません』

アルコール依存症からの回復は、本人がひとりで歩きはじめるところがらはじまる。
したがって、入院治療は本質的に回復とは逆行したものなのである。

もちろん心身に及ぶ酒害が入院治療を必要としていることも多いが、それはあくまで身体治療と、保護・休養のためであって、心の回復という点からみれば”一時停止”なのである。
むしろ入院による依存性の亢進を警戒すべきであり、入院中の生活プログラムは、この点を考慮して本人の自主性と責任を強調したものでなければならない。

しかし理想的な治療プログラムを備えたところで、入院期間中に問題が解決するなどとは思わない方が良い。
まして、問題から逃避したい一心で、本人を病院に預けるという態度を家族が取れば、見捨てられることを恐れる本人を一層家族にしがみつかせることになり、収拾困難な混乱が長く続くことになるであろう。

繰り返すが、入院治療に一時停止以上のものを期待してはならない。回復は退院後の本人の歩みから開始するのである。

以上が筆者の助言であり、酒害者治療に関する枠組みである。

ここでは個々の酒害者と私というひとりの治療者のかかわりを中心に据え、断酒会、A・A(アルコホリクス・アノニマス)などの紹介や、保健所等の社会施設に触れることを敢えて避けている。
これらについての記述は、アルコール医療に関する他の成書にたびたび取り上げられていると思うので参照して頂きたい。
後日機会があれば、ここに述べた枠組みの中で、現実にどのような回復の展開があるかを紹介してみたいものである。

終わり

female_alc.jpg※本原稿は1983年8月25日に(株)海鳴社より出版された「女性とアルコール依存症」(斎藤学著)からほぼ原文のままお届けしています。

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