女性とアルコール依存症(37/38)家族への助言1

女性とアルコール依存症アルコール依存症, ジェンダー

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家族への助言

アルコール依存症は家族全体の病気である。酒害の発生そのものに家族内の力動が関与するのみならず、酒害者を抱えた家族は、様々な影響を受けざるを得ない。
本書ではこの面の検討に触れなかったが、その回復には以下の諸点で家族の協力がどうしても必要になる。

(1)『本人についての思い込みにしがみつかないで下さい』

飲んだくれの妻に悩む夫、甘ったれで酒にだらしない娘を持った父や母は、自分がいちばん酒害者本人について知っていると思い込み、他人の意見に耳を貸そうとしない。
実は家族の問題は家族メンバーにこそ最も見え難いということもあり得るのである。
案外、妻や娘の飲酒問題は”背中のホクロ”のように自分には見えないものの反映であることが多いのである。

(2)『本人を監視せず、尻ぬぐいもしないで下さい』

妻や娘の飲酒行動を見張っていて、酒瓶を取り上げたり、外出を妨げたりする努力は無用である。
家族であろうとなかろうと、他人には本人の行動をコントロールする力がないのだから。飲む飲まないは本人に任せるしかないのである。

その代わり、本人のやったことは確実に本人に責任を取らせる。
それが酔っ払ってしたことであろうとなかろうと、やったことの始末はすべて自分でさせるのである。
早い話しが、玄関で酔いつぶれている娘を、抱き起こして寝床に運ぶことをしてはならない。
娘は、玄関で眼を醒まし、立ち上がるところがら始めなければならないのである。

このことは重要なので例をあげておこう。
私の患者の中によく似た症状を持ったふたりの若い女性患者がいた。仮に久美子と千代美としておく。
ふたりはK病院のアルコール病棟で一緒に治療を受けていたがある日共謀して無断離院してしまった。

その後迂余曲折を経て、結局ふたりともY市の警察に泥酔状態で保護され、留置場に入れられるのだが、警察の電話を受けた両家の対応が大分ちがっていた。
つまり、久美子の家からはすぐに迎えが出て、彼女は早々に自宅に引ぎ取られたのだが、千代美の母親は、かねがねこうした際の対応の仕方について聞かされていたので、「本人のやったことは本人に責任を取らせてください」と言って迎えに行く気配を見せなかった。

実際には千代美の母親も心配になって、その日の夜遅く迎えに行ったのだが、この数時間の差は予想外に多くのものを千代美に与えたようである。
彼女はこの時、自分に責任を取れるのが自分ひとりであることを身にしみて感じたという。
実際、千代美はこの日を契機に断酒し、自分の足を使って筆者との面接に通うようになった。
一方、久美子はその後二回、精神病院に入院し、現在二回目の入院中である。(続く…

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