女性とアルコール依存症(30/38)ボケ老人型、主婦の目標喪失と飲酒《症例 紀子》3

女性とアルコール依存症アルコール依存症, ジェンダー

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和夫は妻の問題飲酒をしばらく気づかずにいた。
彼女が飲んでいるところなどみたこともなかったので、帰宅するたびにだるがって横になっている妻をみても、酔っているとは夢にも思わなかった。

しかし、それまで活動的だった妻の口数が減り、投げやりで怒りっぽくなり、食欲も無くしてやせてくるという事態になっては妻の異常に気づかざるを得ない。

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会社を休み、いやがる妻を説得して友人のいる都内の大学病院内科へ連れて行った。
二回目の外来の時、肝炎という病名を告げられ、「奥さんは飲みすぎだから、少し節制させるように」と医師に言われて、和夫が仰天したことは言うまでもない。

その晩、夫ははじめて妻の理由のない空虚感と不安、居たたまれぬほどの焦燥感についてきかされた。
飲むと直るのだが、じきにイライラが再開して、また飲みだし、ついには酔いつぶれてしまうのだと彼女は言った。

この夜、遅くまで夫と話し合っているうちに、紀子の気分は次第に明るくなり、ついにはすべてが解決したように思った。
「何て馬鹿なことをしてたんだろう。早くこの人に言えば良かったんだわ」と彼女は思い、「もう大丈夫」と何度もくり返して夫に言った。

しかし事態はそれほど甘くなかった。確かに一週間ほどは飲まずに過ぎたが、やがて再び酔った状態で夫を迎える日が多くなった。
叱られると数日止めるがまた飲みだす。なまじがまんした分だけ飲み方がすさまじくなり、朝方から終日飲みつづけて家事をまったく放棄する日が目立つようになった。

息子は寄りつかなくなり、優しい一方だった夫が激怒して手を上げることも稀でなくなった。
「これが最後だ。今度またこんな飲みかたをするようなら、離婚してくれ」と言われて一ヵ月近く断酒したあと、またもや飲みだしてとうとう筆者の外来を訪れることになってしまったと言うわけである。(続く…

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