暴れる30歳の息子(1/4)

オープンカウンセリング7対人恐怖, 暴力

相談者からの質問

image060410.jpg  30歳の息子のことです。中学2年の終わりの頃から登校拒否になりまして、家庭内暴力が始まりました。それからいろんなことがありまして、現在も家庭内暴力が続いております。一時はどうしようもなくて戸塚ヨットスクールに入れました。あまりテレビで騒がれたので、2カ月半くらいで強制的に出してきました。それからかえって家庭内暴力がひどくなり、閉じこもりの生活が始まり、それを繰り返しているうちに、ある病院を紹介されまして、やっとの思いで入院させていただきました。

入院は長くて3ヶ月です。自分で逃げ出してきたり、またあばれたり、そんなことをこの10何年間で3,4回繰り返してきました。どうしていいかわからずに何年も過ごしてきました。

被害妄想がありまして、「ボーダーライン」とか「統合失調」などと言われたんですけど、本人に病識がないので、家に帰ってくると薬も飲まないし、また暴れる。結局、本能のままの生活が、もう何年も続きました。仕事に出ても3日くらいで帰ってきてしまったり、あるいは自立のために国外へ留学させたときは、強制送還みたいのをされました。

===
いろんなことがありまして、仕事ももう全部で50カ所くらい変わりまして、あらゆるところで迷惑をかけました。もうほんとに警察から、保健所から、ありとあらゆる所へ行ったんですけれど、前の病院でも「もうこれ以上預かれない」といわれました。

ほんとに困ったところ、やっと去年、夫(父親)に全治3カ月の重症をおわせましたので、あちこち探してやっと、ある病院に入れていただきました。それで今現在入院中なんですけれど、この先また帰ってくると同じことが起こるんじゃないかと思います。どうしたらいいかわからなくて、ここへ来ました。

斎藤学からの回答

image051226_2.jpg斎藤:今入院中の病院ではどれくらいおいてくれるんですか?

──それが、未定で。今10カ月たったところなんです。もう、結局、治療というより、ただ置いておいてくれるというだけで。

斎藤:幻想をおやめになることですね。息子さんの治療といいますが、何を治療なさるおつもりですか?

──感情のコントロールができるように。

斎藤:そういうことは成長に従って、人によっては身に付くといったものです。息子さんは子どもじゃないでしょ。もう、30歳になっていますから、だいたい今の状態がこの人の限度だと思います。
特に親に対しては暴力の抑制が利かないから危ないですね。この人は誰かに依存していないと生きていくことができないの。依存できるのは親だけだから、必死で、強制的にでも親から援助を引き出そうとする。それで暴力が出る、こういうことですね?
これは彼の生活態度で、それ自体は治療の対象じゃありません。

──でも、被害妄想とか、視線恐怖、対人恐怖みたいなのが、結構強いときと、そういうのがあるんですけれど、それも直りませんか。

斎藤:基になっているのは対人恐怖でしょう。これは治療の対象になり得ます。被害妄想は、対人恐怖の延長上のものでしょうが、これも治療対象になる。ただ、この種の精神症状に対応するとなると一定の治療者ないし治療的集団の中での人間関係を維持する能力が必要となるのですが、息子さんの場合、そこが欠けていたり貧弱だったりするのだと思います。

一定の人物との関係が育ちにくい人じゃないかな。一人の人に親切にされると、次々に要求を出して関係を食いつぶしてしまう。いわゆる境界性パーソナリティ障害(ボーダーライン)というものが症状の基盤にあるのでしょう。
これに対応するとなると綿密に組み立てられた治療プログラムを7〜8年にわたって持続するという粘りが必要です。その間なんども治療からのドロップアウトがあって、患者も治療者もそのつど治療関係を結び直さなければならない。患者もタイヘンだが、治療者もタイヘンで、一人では応じきれなくなる。だから各職種(複数の精神科医だけでなく看護師、ソシアルワーカー、心理療法士など)からなるチームが、一定の方針のもとにあたらなければならないし、回復者や親たちを含めたグループ療法は必須です。
治療チームの人々とはしょっちゅう喧嘩したりしますので、治療チーム内での相互支援体制(主治療者によるスーパーヴイジョンを含む)が欠かせません。電話相談についても可能な限り応じなければなりません。こういう系統的な治療をすれば境界性パーソナリティ障害は回復可能です。6年後には70%の回復という報告もあります。残念ながら外国人の報告(Zanarini,M.C.,et als:The longitudinal course of borderline psychopathology:6-year prospective follow-up of the phenomenology of borderline personality disorder.Am J Psychiatry,160;273-283,2003.)ですが。私のところ(さいとうクリニック)も、こういう体制を維持するように心がけていて、それなりに成功しています。この10年の間に沢山の回復者/寛解者が出ていますし、そういう事例についての報告なら100例くらいはできるでしょう。それが来院した人の中でどのくらいの割合かについてもきちんとした報告をださなければいけないのでしょうが、まだ整理できていません。
印象で言えば、やはり70%は良くなっていて、最短2年、平均7年くらいじっくり見させて頂ければ何とかできると思っています。ただ何をするにも患者さんの方が治療する気になってくれないと、話が始まらない。私たちは外来での「デイケア」の中でやっているからです。(続く…

新刊のお知らせ

斎藤学言葉集斎藤学言葉集(Kindleページにジャンプします)
トラウマ、サバイバー、家族問題、虐待、依存症、ひきこもり、自分らしく生きる…
これらの問題に長年取り組んできた精神科医斎藤学による講演集です。 講演会場での臨場感あふれる言葉の中に、生きてゆくヒントをたくさん見つけることでしょう。

対人恐怖, 暴力

Posted by iff