悩み抱え、死にたがる息子(1/2)
相談者からの質問
うちの息子は30になります。
会社のストレスからだと思うのですが、3年くらい前から、仕事をしていても体が震えて、なんにも手に付かなくなるようになりました。本人からいろいろ話を聞いて、私も病院に勤めているのでそこの先生に相談したところ、心療内科へいったらどうかといわれてそこへいって安定剤だと思うのですが薬を出してもらったのですが、飲んでもあまりきかないのです。
そこで私の勤め先の先生に教えられて。斎藤先生を知りました。息子の方が一人でこちらへ2度か3度きたことがあります。そして、いろいろ先生の本も買って読みました。息子は大学で4年間心理学を専攻してきたものですから、親のいうことは先へ先へと読んで行くような子で、もう、こっちが何かいっても、数倍勉強して返します。
また先生の本を読んで「アダルトチルドレン」という言葉をよく使います。勧められて私も先生の本を読み、一緒に自分の育ってきた環境、主人の育ってきた環境を話し合って泣きました。それでずいぶん本人も心が安らいできたみたいなのですが。
でも、私もここへきてふるえるくらいで、昔から神経症のところがありました。20代の頃自律神経失調症という診断をいただきまして、薬で神経を落ちつかせてきたことも何度もあります。
こういう親が子供を育ててきたということもあるのかもわかりませんが、息子はとても神経質です。
30になって、ストレスからノイローゼ気味になり、アルコールをのんでいて一定の量を超えますと、目がすわってくるのがわかります。座った目でどんどん愉快になるのか、自分のことを親にわかってもらいたいもんですから、いろいろ話をします。でもその度が過ぎると、今度は「死」とか、会社の上司のことで「殺す」とか言う言葉がでてくるのです。で、私はそういう言葉がきらいだから「いわないで」っていうんですけれど。
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それから3回くらい、自分から命を絶とうとする行動を私に見せました。私は最初は動転して「私は一生懸命あなたを産んできたんだから、何もココで自分から命を落とすことはやめてくれ」といって一緒に泣いて、二度とやめてといったのですが、また何かで自分にストレスがかかってきたときに「死」ってことばがでます。
とても本が好きな子ですので聖書も全部読んでます。その影響なのか「僕に悪魔が乗り移った」というようなことをいうものですから、ひょっとしたら私は病気かなと思ってもう一度、心療内科にいくことを薦めたのですが「そこへいっても僕は同じだよ」と言って、「とにかくお父さんとお母さん、斎藤先生のところへいってよ、両親そろって話を聞いてきてくれ」と息子は言いました。それでオープンカウンセリングのことを聞きまして参加しました。それを言うと息子は「すまないね、お母さん」と言います。で、「両親が僕と同じ気持ちになった」ということでたぶんあの子は安心したのでしょうか、「どうも、お父さんお母さんありがとう、いそがしいのにすいません」という言葉を言いました。
息子によると、口で言っても相手がわかってくれないとき乱暴な行動になる、ものを投げたり、け飛ばしたり、刃物で机の上を指したりするということです。本人にそのときの状態を聞くと、体が震えてきて心臓がずっとつらくなるそうです。それから、今日は主人もきていますけれど、父親がとても完璧主義で、それがとてもいやだっていうんです。主人は今でも息子より力が強いです。頭の方は、息子の方がいろいろなことを勉強して知ってますから主人の方が負けますけど。
うちの主人は、若いときから体と行動で動いてきた人ですから、やっぱり理屈でものをいわれるといらいらするようです。息子を見ていて体が伴わないのに頭だけが先に行くことに対して主人は気に入らなくてけんかになるんですけど、「そういう父親の完璧主義がいやだ、そんな父親より自分が弱い、自立できない」といって自分を責めるときがあるんです。だから「父親よりあなたは年下だし、父親を抜かすってことは難しいのよ」ってわたしは説得するんです。
すると子供の頃のことを息子は盛んに話します。「小さいときにこういわれてとてもいやだった」、「お父さんが僕を殴ったときがある」とか、そういう小さいときのことを鮮明に覚えている子で、親が忘れてるようなことをいうんですね。
最後に一つ、先生に聞きたいことなんですけれど、、今レキソタンとトフラニールと、トリプタノールという薬を心療内科でいただいているんですけれど、それをアルコールを飲んだ後で服用しても大丈夫なのでしょうか。危険性はないでしょうか。
斎藤学からの回答
斎藤:はい。だいたい。わかりました。オッケー。
まず、よくきていただけましたね。これはあなたの息子さんに代わってお礼申し上げます。本当によくきていただけたと思う。息子さん、うれしかったと思いますよ。どうしてうれしかったと思います? 彼はなぜ、お父さん、お母さんありがとうと、いったんですか?
──自分の心の悩みをお母さんとお父さんが分かり合ってくれてるってことだと思います。
斎藤:いや、わかってはいませんよ。
──あ、そうですか。
斎藤:うん。彼が今一番困っているのは、罪悪感なんですよ。どういう罪悪感だかわかりますか?
──30にもなって定職がなく、バイトで働いていて親に迷惑かけてるんじゃないかということが頭にあります。金銭面でも。
斎藤:そうでしょう。そのことはお父様も感じてるかな。
お父様にも聞いてみましょう。感じてますね。
そうなんですよ。彼はとっても今困ってるんですよ。で、申し訳ないという気分でいっぱいなんですよ。そこへ持ってきて、あなた方へお金と時間と体力使わせて、で、申し訳なくてしょうがないんですね。
本当だったら「そんなところに行かなくていい」といいたいところなんだが、それでもなおかつ行ってもらいたい。それはね、自分のこと自分では説明しきることができないという、彼独特の自己卑下、自己評価の低さがあって、自分がいったんじゃ納得しないと思いこんじゃってるの。だから、私に説明させようという、こういう横着をやってるんですよ。それで、「わるい、わるい、わるい、わるい」と思っている。しかし、このことを彼がしらふの時に口に出せば自分で自分を余計追い込んでしまうものですから、とりあえず敵を作っておく。それがお父さんの完璧主義云々なんですよ。
彼が一番攻めているのは自分自身のことです。解決は、ですから彼自身に力があることを知らせることです。そのときに、「こういうのが年相応だ」とか「こういう風にすべきだ」とか言っちゃうと、もともと罪悪感が強くて自分に自信がない人は、無力感で押しつぶされてしまうのです。なにもできなくなっちゃうんです。ですから何にも言わないのがこつです。
もっというとパラドックス(逆説)が利くんですよ。「なんだ、おまえ、俺がまだ元気でいるのに働こうってのか? 俺がまだおまえを食わせられないって思うのか? このやろう、俺がよいよいになるまでお前は働くな!」というのがパラドックスです。で、こっちが元気なうちは詩を作れ、教会にいって奉仕活動しろ、とか何でもいいですよ。そんなこというと冗談だと思うでしょうから本気になって言ってみてください。彼は、かえって働き出しますよ。(続く…)