カテゴリー「オープンカウンセリング7」の一覧

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2006年04月10日

暴れる30歳の息子(1/4)

相談者からの質問

image060410.jpg  30歳の息子のことです。中学2年の終わりの頃から登校拒否になりまして、家庭内暴力が始まりました。それからいろんなことがありまして、現在も家庭内暴力が続いております。一時はどうしようもなくて戸塚ヨットスクールに入れました。あまりテレビで騒がれたので、2カ月半くらいで強制的に出してきました。それからかえって家庭内暴力がひどくなり、閉じこもりの生活が始まり、それを繰り返しているうちに、ある病院を紹介されまして、やっとの思いで入院させていただきました。

 入院は長くて3ヶ月です。自分で逃げ出してきたり、またあばれたり、そんなことをこの10何年間で3,4回繰り返してきました。どうしていいかわからずに何年も過ごしてきました。

 被害妄想がありまして、「ボーダーライン」とか「統合失調」などと言われたんですけど、本人に病識がないので、家に帰ってくると薬も飲まないし、また暴れる。結局、本能のままの生活が、もう何年も続きました。仕事に出ても3日くらいで帰ってきてしまったり、あるいは自立のために国外へ留学させたときは、強制送還みたいのをされました。

===
 いろんなことがありまして、仕事ももう全部で50カ所くらい変わりまして、あらゆるところで迷惑をかけました。もうほんとに警察から、保健所から、ありとあらゆる所へ行ったんですけれど、前の病院でも「もうこれ以上預かれない」といわれました。

 ほんとに困ったところ、やっと去年、夫(父親)に全治3カ月の重症をおわせましたので、あちこち探してやっと、ある病院に入れていただきました。それで今現在入院中なんですけれど、この先また帰ってくると同じことが起こるんじゃないかと思います。どうしたらいいかわからなくて、ここへ来ました。

斎藤学からの回答

image051226_2.jpg斎藤:今入院中の病院ではどれくらいおいてくれるんですか?

  ──それが、未定で。今10カ月たったところなんです。もう、結局、治療というより、ただ置いておいてくれるというだけで。

斎藤:幻想をおやめになることですね。息子さんの治療といいますが、何を治療なさるおつもりですか?

  ──感情のコントロールができるように。

斎藤:そういうことは成長に従って、人によっては身に付くといったものです。息子さんは子どもじゃないでしょ。もう、30歳になっていますから、だいたい今の状態がこの人の限度だと思います。
 特に親に対しては暴力の抑制が利かないから危ないですね。この人は誰かに依存していないと生きていくことができないの。依存できるのは親だけだから、必死で、強制的にでも親から援助を引き出そうとする。それで暴力が出る、こういうことですね?
 これは彼の生活態度で、それ自体は治療の対象じゃありません。

  ──でも、被害妄想とか、視線恐怖、対人恐怖みたいなのが、結構強いときと、そういうのがあるんですけれど、それも直りませんか。

斎藤:基になっているのは対人恐怖でしょう。これは治療の対象になり得ます。被害妄想は、対人恐怖の延長上のものでしょうが、これも治療対象になる。ただ、この種の精神症状に対応するとなると一定の治療者ないし治療的集団の中での人間関係を維持する能力が必要となるのですが、息子さんの場合、そこが欠けていたり貧弱だったりするのだと思います。

 一定の人物との関係が育ちにくい人じゃないかな。一人の人に親切にされると、次々に要求を出して関係を食いつぶしてしまう。いわゆる境界性パーソナリティ障害(ボーダーライン)というものが症状の基盤にあるのでしょう。
 これに対応するとなると綿密に組み立てられた治療プログラムを7〜8年にわたって持続するという粘りが必要です。その間なんども治療からのドロップアウトがあって、患者も治療者もそのつど治療関係を結び直さなければならない。患者もタイヘンだが、治療者もタイヘンで、一人では応じきれなくなる。だから各職種(複数の精神科医だけでなく看護師、ソシアルワーカー、心理療法士など)からなるチームが、一定の方針のもとにあたらなければならないし、回復者や親たちを含めたグループ療法は必須です。
 治療チームの人々とはしょっちゅう喧嘩したりしますので、治療チーム内での相互支援体制(主治療者によるスーパーヴイジョンを含む)が欠かせません。電話相談についても可能な限り応じなければなりません。こういう系統的な治療をすれば境界性パーソナリティ障害は回復可能です。6年後には70%の回復という報告もあります。残念ながら外国人の報告(Zanarini,M.C.,et als:The longitudinal course of borderline psychopathology:6-year prospective follow-up of the phenomenology of borderline personality disorder.Am J Psychiatry,160;273-283,2003.)ですが。私のところ(さいとうクリニック)も、こういう体制を維持するように心がけていて、それなりに成功しています。この10年の間に沢山の回復者/寛解者が出ていますし、そういう事例についての報告なら100例くらいはできるでしょう。それが来院した人の中でどのくらいの割合かについてもきちんとした報告をださなければいけないのでしょうが、まだ整理できていません。
 印象で言えば、やはり70%は良くなっていて、最短2年、平均7年くらいじっくり見させて頂ければ何とかできると思っています。ただ何をするにも患者さんの方が治療する気になってくれないと、話が始まらない。私たちは外来での「デイケア」の中でやっているからです。(続く…)

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2006年04月11日

暴れる30歳の息子(2/4)

(続き)
image060411_1.jpg 息子さんは「暴れて入院」ということはできても、家から毎朝(厳密には週に4〜5回)自分の意志で通院してくるということができないんじゃないですか?
 そうなるとまず、「自分の意志で通院」という「治療動機付け」を作るところから始めなければならなくなる。これがタイヘンなんですよ。

 今の精神病院入院は、それなりの必要があってしてことだからそれでいいのですが、この「治療動機付け」の役にはたっていないような気がします。現在の治療内容がわからないので、断定はできませんが。とりあえず、今回の入院はご当人治療のためというより、あなた方を保護するためだったとお考えになるのが適当と思います。治療しているという幻想をお持ちになるから、失望もあるし、将来に虚しい期待を持ってしまうということも起こる。

 これまで10数年繰り返してこれられて、わかったこともおありでしょうから、そこをハッキリさせてから以後のことを考えましょう。私には奇跡は起こせません。私にできるのは、皆さんがやってこられたご経験の中から、今後に生かせそうなものを探すお手伝いくらいのものです。そうすると、あなたにできることって何でしょうか?

 −−−(無言)

===
斎藤:息子さんみたいな人は、いっぱいいますよね。家庭内暴力から始まって、入院退院を繰り返し、その間に家族、特に親が怪我をしたりする。そういう事例でも初期の介入によってはまったく違う転がりかたしたと思いますね。山の上から雪の玉が落ちたとしても、西の斜面を転がるのと、東の斜面を転がるので、雪崩になったりならなかったりしますね。今、相当大きな雪だるまになってるわけですが、この雪だるまそのものを消し去ろうとしても無理です。
 こうなっているときには、落ちて行く先の被害を少なくすることでしょう。先へ進めば進むほど、だんだん選択肢が少なくなってきます。選択肢が幾つか残っているうちに、比較的いいと思われる手段を講じる。あなたに残されてる手段は、なんでしょう?

  ──結局、親子別々に暮らすっていうこと.......

斎藤:その前に、いまの病院をどうしようっていうことがありますよね。

image060411_2.jpg  ──はい。やはり、いえにつれて帰ってくると、また同じことが繰り返されるんじゃないかと思ってますので、主人と話し合ってるんですけれども、病院の方でいわれるまで入院させて置いた方がいいのだろうかと。
 ただ、ものすごい治療費なんです。今は、個人部屋なんですけど、最初は1日2万円で1カ月で80万から100万くらいかかったんです。いまは、だんだんさげていただいたんですけども、本人を隔離からはなすと、他の患者さんに迷惑がかかるというので、安い部屋には「できない」といわれたんです。
 あそこは個室に鍵がかかるのと、全体に鍵がかかるのとあるんですけど、今は鍵を開けていただいたんですが、外には一回しかまだ出していただいていないんです。逃げてしまいますから。うちのは、すぐ。

斎藤:先ほど治療的改善ということは頭の外に出した方がいいと言いましたね。「親に頼れば何とかなる」という息子さんの考えは病気ではないから病院では治せない。となると、今の入院期間を彼の「治療動機付け」のために使うことにした方がいい。あなたも先ほど呟いてましたが、あなた方はこの息子さんと一緒に住んではいけないのです。これがあなたが関わる最後の入院にするのだから、なるべく長い入院がいいのですが、そのためにはお金がかかり過ぎてはいけません。あなたがた二人の今後の生活がありますから。差額ベッド以外のベッドに移してもらうか、それがダメなら入院を切り上げることにして、それまでにあなた方は身を隠す。(続く…)

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2006年04月12日

暴れる30歳の息子(3/4)

(続き)
image060412_1.jpg  ──今住んでいるところを売って、別の所に引っ越そうかということを考えてるんですけれど、一生今かかっている病院にお世話になることになるとすれば、病院の近くに引っ越そうかと。

斎藤:それでは引っ越す意味がないんじゃないですか? 治療を動機づける上で唯一の方法は、あなた方が彼と一切かかわらなくなることです。といっても息子さんは必死で親を捜すでしょう。

  ──逃げたところでうちの息子は草の根分けても探し出すと思います。

斎藤:そうですかね。この依存的な息子さんは簡単なことしかできないと思いますよ。例えば元の家の近所の人たちに迷惑をかけることで、親を引きづり出そうとか。それに草の根分けても探されないような方法もあるはずです。

===
 そう言えるのは、今まで相談に来られた親たちの中に、そのようにしておられる方々がかなりの数いるからです。息子に探し出されない方法を工夫することは、あなた方のためだけではなく、息子さんのためでもあるのです。それができないとなると、あなた方のご昇天だけが、彼の立ち直る道になってしまう。

image060412_2.jpg 姿を消すにはいろいろやらなければならないことがあるでしょうから、早速準備に入って今回の入院中に決行した方がいい。彼が病院から戻ってきて一緒に住むとなると、もう一度最初からやり直しになります。どこかで誰かが怪我をして、警察の介入ないし保護による入院。で、また大金を使う、の繰り返しです。そしていずれあなた方が姿を消さざるを得なくなるときがくる。それなら今をそのときにした方がいい。

 むしろ私が心配するのは、この息子さん、依存的な人ですから、あなた方を探し出す努力をしてくれないんじゃないかということです。しっかり親探しをしてくれないと、保健所や警察の出番がなくなって、私たちの出る幕がなくなってしまう。私たちとしては「彼が困っているとき」しか出番がないのです。うまく困ってくれて、地域の中で問題を起してくれた方が、地元の諸機関が動きやすい。
 そういうとき、息子さんが困って「自分はヘンだ、治療しなければ」と思うようになれば、私たちに仕事がまわってきます。ご両親が彼を支え続けているうちは、こうした地域からの危機介入の気運が起こらない。
 
 ──何年か前にも逃げてみたんですけれど、結局、周りに迷惑を掛けてしまって。

斎藤:迷惑をかけてることさえあなた方にはわからないようにすることが「姿を消す」ということです。「迷惑をかけた」ことがわかれば、あなた方はきっとその場へ出向いてしまうでしょう。彼はそのようにして親たちをおびき寄せるわけです。
 それに親の方でも、何やらかにやら、自分たちが探し出されるヒントを残しておくのが普通で、それが「親ごころ」とは知りつつも、「それをしてはいけない」と言うのが私の仕事です。

 とにかく彼がなにをやってるかわからないような所へいかなければならないのだが、それが無理とおっしゃるならもう一つの方法を取りましょう。それは息子の問題を隣近所のすべての人々に知ってもらって、その上で「我々はこれから身を隠します。いろいろご迷惑をかけることになるかも知れませんが、これしか息子を立ち直らせる方法がないと、ある人に助言されたのでそうします。ついては何かあったら、警察経由で東京都衛生局の精神科救急鑑定へ(精神保健福祉法24条〜29条参照)」と言って歩くことです。そうしてから思いつく限りで暮らせる処に逃げてしまう。

 近所の方々に家の内情を言って歩くのは辛い作業なのですが、協力してくださる方々が必ずいます。そういう人々から私の名前が息子さんに伝わって、彼自身が来院してくることがあるかもしれない。しかしおそらくは私を脅してあなた方の居場所を白状させるためにてやって来ると思うので、すぐには治療に入れません。だから私はあなた方の新しい居場所を知らない方がいい。脅されたり、拷問されたりして白状しちゃうといけませんから。
 もっとも私の方でもこうした若い暴れ者たちへの対応は初めてではありませんから、滅多なことでは捕まりません。こういうことが多々あるので、皆さんが私の居場所にたどり着くのはタイヘンなのです。素性の知れた人としか会わないし、会うときは必ず他の誰かが隣の部屋にいます。電話にも直接は出ません。電車などの公共の乗り物もなるべく使わない。駅のホームなどは危ないですからね。こんなふうに警戒してなければいけない仕事をしているのですよ、私は。(続く…)

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2006年04月13日

暴れる30歳の息子(4/4)

(続き)
image051014_3.jpg でも仮に息子さんが私を脅しにきたとしても「きた」ことには変わらない。それをきっかけに何とか治療に持ち込もうというのが私の側の思惑で、脅されながらも親と会える方法を知ってるフリをしたりして、その方法の第一段階としての治療的面接を提案していくのです。もちろんそういうユトリが持てる会いかたができればの話ですが。

 さいとうクリニックが始まって最初の頃のケースにこんな人々がいました。あなたの息子さんのような人と、彼に恋した女子大生のお嬢さんです。このカップルは二人ともボーダーラインですけれど、女子大生のほうが、この30代後半になる彼を自分の愛の力で立ち直らせることができると幻想を持ってしまった。こうなると始末に悪いですね。
 彼に暴力を振るわれている親二人は既に姿を消していて、ある片田舎の町でひっそりと夫婦で住み込みの仕事をして暮らしていました。元校長先生夫婦だったのですが、そうせざるを得なかったのでしょう。これは私が指示してそうしたわけではありません。
 これによって彼の自己愛的憤怒と暴力は随分と治まり、数年は静かに暮していたのですが、その女性と出会ってから全てが振り出しに戻ってしまいました。ついには親も見つけ出したのですが、そのときには私の介入が始まっていたので、私のところで会うことにさせました。父親を帰そうとするときに暴力が出たので、私が殴られることにして父親をタクシーで逃げさせた。

===
 このお嬢さんは自分の実家にこの自己愛男(人格診断としては境界性パーソナリティ障害)を同居させたためにご実家の方は大変なことになった。元から悩んでいた娘の自傷と暴力だけじゃなくて、この男の問題まで背負い込むことになり、そこの父親が私を訪ねてきたためにこのケースと接することになったのです。

 当時はこのオープン・カウンセリングもありませんでしたから。治療というより危機介入的な状況が続きましたが、結局この男性は、初診から2年後に酔って転落死しました。事故ですが、半分は飛び降り自殺だったのでしょう。そういうわけで私は、この男を救うことに失敗したわけですが、失敗するしかなかったろうと思います。彼に寝食を提供し、将来の回復という幻想を夢見続ける女が傍にいる限り。

 こういう、そばにいて食い物をやって寝るところを与えてくれる人を、イネイブラーと呼びます。「支え手」と訳しますが、これがいるうちは、本人は絶対に立ち直ることはありません。この娘とその両親には、今日私があなたに申し上げたのと同じことを言いました。彼らは私の話を録音テープに収め、多分彼を含めて一家中で何回も聞いたのだと思います。彼が死亡したのは、その一週後で、その直後、娘からは私への恨みの電話がありました。

 嬉しい記憶ではありませんが、私のしたことが間違っていたとは思っていません。この男は自分の背丈と能力で生きる勇気を持つべきでした。私との出会いがしらの数週のように魅力的な笑顔で私を幻惑させ続ければ良かった。それが出来なかったのは、私との人間関係につきものの距離感に耐えられなくなったからです。
 彼は私にとっての「一番で唯一の患者」になりたかったし、それ以外にはなりたくなかった。しかし治療ドロップアウトは彼のような人々にとってはあたりまえのこと。私は彼が治療に戻って来るのを待っていました。ただし恋愛相手の家から離れたうえで。

 彼をあんなふうな自己愛モンスターにしてしまったのは実は以前の治療者たちです。彼はハイティーンとして、後には若い成人として某精神病院の医師たちや女性スタッフからチヤホヤされていました。人をタラシ込む魅力を憶えてしまい、それが誰にでも通用すると錯覚してしまった。彼は10数年にわたってその精神病院での人間関係に耽溺し、ついには女性スタッフの一人と同棲するに至りました。この件で一人の女性のキャリアは挫折し、彼はその精神病院との縁を絶たれました。彼が猿の群れからはずれた一匹雄のようにさすらい、女性を誘惑し続けるようになったのはそれ以後のことです。

 以上のようなわけで病院に何も期待してはいけません。その病院だけじゃない、どの病院にも私の所のクリニックにもです。今のままの息子さんであれば、そうした人を治す薬も治療法もありません。彼はいっさいの治療を拒否してお母さんの懐に潜り込もうとしているのですから。精神的胎児化に至った自己愛モンスターが求めるのは、いつでも「家」という名の子宮です。それを許してしまったら、回復の途につくことすらできません。そういうわけで、一切の幻想をお断ちになることをお勧めするのです。

 ここで私がお話ししたことに、あなたが納得し「まあしこれしかないのか」というあきらめがつくまでに、少し、いやだいぶ時間が必要だと思います。あきらめがついてからで結構です。もし、私をコーチ役に選ぼうと思われるのなら、もう一度私の所へ来てください。しかし私はコーチしかできません。今のところ、息子さんの治療はできません。
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斎藤学の講座・ワークショップ

講座名日程時間料金対象会場
斎藤学ワークショップ6/17
18
14:00〜20:00
10:00〜18:00
31,500円一般東京麻布
斎藤学オープンカウンセリング18:30〜20:303,000円
5,000円
一般東京麻布
親のための家族相談18:30〜20:303,000円
5,000円
一般東京麻布

※開催日については必ず各講座の詳細ページでご確認下さい

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