2007年01月の一覧
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2007年01月09日
クレプトマニアと罪悪感(ブログ版)その8(1/2)
3症例に見られる妄想的罪悪感
孤立選択
[引用2]には被告人A子が「人間関係をごく狭いものにしている」ことが書かれている。
子殺しにせよ窃盗癖にせよ、反社会的行為はそれを犯す個人の社会からの孤立を前提として発生する。本特集の対談に応じた窃盗癖の3人にも、この孤立傾向が共通して見られる。そしてそれは生育家族そのものが地域社会の中で選択していたものを基盤として発生しているように思われる。
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地域社会から孤立した家族の中で育てば、その個人の社会化は阻害される。親たちや同胞との関係が適切であれば、そうした社会化の遅れもある程度は補填されるが、家族内コミュニケーションが充分でなければ、そうした修正も効かない。そうした子どもが親の期待にそった「良い子」の自己を維持しようとすれば、教師や友人からの批判を意識から排除せざるを得ない。
つまり彼らは他者の否定的評価を否認したり、脱価値化したりして周囲から超然としているように振る舞うようになる。ここでは、こうした態度を「孤立選択」と呼ぶことにする。
「選択」の語を用いるのは、彼らがこうした対人関係上の振る舞いをある程度は「自らの意志」として意識しているからに見えるからである。彼らは意識して孤立を選択したと考えているが、「それが何故か」については気づいていない。(続く)
※この原稿はアディクションと家族23巻3号(特集:クレプトマニア)からの抜粋です
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2007年01月12日
クレプトマニアと罪悪感(ブログ版)その8(2/2)
L男の引きこもり
L男の生育家族は彼が小学校に入るまで関西にいて、居住地の東京近県に根付いていたわけではない。今も血縁の多くは関西に住んでいる。
父親は物理学関係の研究者で勤め人であり、内閉的な人柄もあって地域の人々との交流はむしろ避けていた。母親も家事に専念する人で地域の人々との交流に心がけるということはなかった。
元来、東京で働く人々のための造成住宅地に家屋建設会社の規格住宅を購入して建てられた家で、町内会とか地域の祭りということからは縁遠い一家であった。大都市近郊にこうした家族が希ではないとはいえ、このことはやはりL男のような「引きこもり成人」の発生に関しては押さえておくべきだと思う。
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L男は学者の長男であり、それを誇りとする母親は彼の学歴を重要視していた。
父親を畏敬(その程度は病的と言えるほどのものである)する彼は、その圧力をもっともなこととして、その期待に添えない自分を責め続けた。その点で姉とも、弟とも違った立場にいることを過剰に意識して悩む少年であったようだ。
関東に引っ越してからは近所に年齢のあった子どもたちがいなかったこともあって遊び相手は3歳年下の弟に限られた。こうして彼は社会化の遅れた、そのくせプライドだけは高いので超然とした風情を示す少年として地元の公立中学に進んだらしい。
ここの2年生のとき、いわゆる番長少年たちからのいじめの標的にされ、脅えながら卒業までの日々を過ごしたが、彼はこの屈辱や恐怖を親たちには一切漏らしていない。その代わりのように弟への支配欲、競争心、嫉妬は亢進した。ちなみに、登校しないという選択は意識に上らなかったという。それを考えるには父親が怖すぎたし、母親の願望への配慮も強すぎた。
こうした状況に置かれたL男に残された選択は、日々を「フリをして過ごす」ということであったようだ。学校が楽しいフリ、熱心に勉強しているフリ、厳しいながらに弟にやさしい兄のフリ。しかしその代償として彼は感情という現実と向き合うことを放棄した。
そうした現実回避のツケを払わされることになったのは大学進学ないし就職という「家離れ期」の課題に直面した時である。
彼はどちらも選べないまま、さしたる意志もなくズルズルと3年間の浪人をし、いくつもの専門学校に学費だけ払い、最後にはなにもせずに家の中の日当たりの悪い一室に閉じこもって昼は寝て暮らすという生活に入った。
この「引きこもり」は7年にわたって続いた。その後、あるきっかけで精神科クリニックのデイケアにつながったが、その後の8年間も通院以外の社会的活動はしていない。唯一の例外が3年前まで2年弱にわたって続いた強迫的反復的な窃盗であった。対談にもあるように盗んだものを蓄えることのみを目的とするような蒐集狂(collectomania)に近い盗みであった。
この間、二人の女性と親密な関係を持ったが、これも彼の方から働きかけたものではない。
※この原稿はアディクションと家族23巻3号(特集:クレプトマニア)からの抜粋です
斎藤学の講座・ワークショップ
| 講座名 | 日程 | 時間 | 料金 | 対象 | 会場 |
| 斎藤学ワークショップ | 3/3、4 | 14:00〜20:00 10:00〜18:00 | 31,500円 | 一般 | 東京麻布 |
| 斎藤学オープンカウンセリング | 火 | 18:30〜20:30 | 3,000円 5,000円 | 一般 | 東京麻布 |
| 親のための家族相談 | 火 | 18:30〜20:30 | 3,000円 5,000円 | 一般 | 東京麻布 |
※開催日については必ず各講座の詳細ページでご確認下さい
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2007年01月16日
猛り狂う娘:グリーフワークとは何か(1/3)
お知らせ
長い間、クレプトマニアについての記事を掲載していましたが、既に活字(「アディクションと家族」誌23巻3号)がブログを追い越すことになっているので、この辺で終了します。実は、「L男」君と同様に興味深い、二人の女性との対話が雑誌に載っていますので、続きはそちらで読んでください。
今回から再び、私の関心を引いたクライエントとの対話についての話題に入ります。
Q先日、娘(34歳長女、一児の母)と一緒にS(斎藤学のこと、以下同)にお会いしました。そこを「子どもからの卒業」の儀式と考えましょうとおっしゃっていたので、何かが劇的に改善するかと期待していたのですが、娘はいつもの調子で私への恨みつらみを並べるばかりでした。
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娘はSクリニックでグリーフワークというものをしているそうで、それをすれば治るということでしたが、今年(06年)の秋から私たちを責めることが激しくなるばかりで、事態は悪くなっているように思うんです。
これからどうなってしまうのか不安で暗澹とした気持ちです。この先の光が見えないのです。
Sグリーフワークそのものは治療の過程ではあっても、それ自体で改善が生じるといった治療技法ではありません。
彼女は今、親から「貰い損ねたもの」を探しているのでしょう。貰い損ねたものというのは「自分」です。
私思うに、娘さんはお母さんをカラッポと思っている。お母さんの「自分」はお父さんか、あるいはお母さんのご両親か。そういうお母さんを娘さんはぶっ壊したくなってるんでしょうね。
でも、そう思うこと自体、お母さんに依存しているわけで、本当はお母さんに立腹している自分にも嫌になっているというのが娘さんの本音だろうと思います。
娘さんは私への手紙の中で「先日の合同面接ではモノマネだけで物を言っている母親を思う存分たたき壊したつもり。先生からみて、それはうまく行ったと思いますか?」と書いてらっしゃいました。「今後、母からは引きこもる」とも。
むしろ彼女の関心は、母親を子ども扱いして成長を止めさせてしまった父親との対決にあるようです。
お母さまにはショックだったでしょうが、そもそも初回のセッションで劇的に改善するというのが無理な話です。(続く…)
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2007年01月19日
猛り狂う娘:グリーフワークとは何か(2/3)
先日お会いしたことで私は一人の主婦であるあなたの娘さんとあなたとを、一組の母娘として認識したばかりです。確かにあなたがた双方とはそれぞれ数回づつお会いしているわけですが、二人を一対の母と娘として認識したのは先日が初めてなのです。
これから私は、あなたがた二人の人間関係の中に入り込ませて頂いて、それによってお二人の関係が自然に変化して行くのを見せて頂くことになります。それが私の役割で、そこには奇跡も魔術もありません。
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前回のセッションは「会ったら殺したくなるから、親には会わない」という娘が一日がかりで遠い○市からやってきて、「娘を以前のような従順な子に戻ってもらいたい」という母親が3時間かけて□市からやってきて、二人が都心の私の事務所で出会ったという大仕事だったのです。
奇跡というなら、これ自体がひとつの奇跡です。娘さんのすさまじい怒りを見て、なぜこうなってしまうのかを共感するところから私の仕事が始まります。
今日のあなたの質問を聞くと、私に「丸投げ」すれば事が片づくと思っていらっしゃるのではないかと思って心配です。私に少しでも仕事をさせようと思うならもっと情報をください。私の前に坐って頂くのが一番の情報で、これがないと私の仕事は進みません。なぜなら私の頭の中にあなたがたのご家族のことが一杯につまって、その一人ひとりが私の空想の中で勝手に動き出すという状態になってはじめて、私はあなたがたに有効な助言ができるようになるからです。
情報は文字だけでなく、声や表情が伴っているものが貴重です。ところで、あの娘さんはなぜあんなにつっかかるとお思いですか?
Qもともときつい性格だったのです。長女ということで随分過剰な期待をかけ、うまく行かないと父親が「たまに」暴力をふるった。それが娘の中で「いつも」に変わり、それで怒っていると思います。(続く…)
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2007年01月22日
猛り狂う娘:グリーフワークとは何か(3/3)
Sグリーフワークというものは今まで押さえてきた自分の悲しみや怒りを口に出すという作業です。
娘さんの言葉の中には、あなたからすれば甘えとしか思えないことが多いでしょう。そこには誇張もあるだろうし、時には嘘さえ含まれてるかも知れない。
でも、現在の彼女にはそれを語る必要があるのだから私たちは黙って聞いていた方がいいのです。
彼女の語りを批判したり抑制したりは無用です。親への恨みを語るとするなら、それにはそれなりの大切な意味があるのです。それをそのまま受け止めてくれる人たちを得ることによって、怒りはもっと静かな述懐に代ります。
そこには過去ではなく、現在の自分にまつわる様々な悩みや孤独や悲しみが、そして自分の未来に対する不安(将来への恐怖)があるはず。
それはもはや親たちに責任を押しつければすむというものではありません。
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そういうわけで、怒っている子どもが怒りの対象である親たちに直接それをぶつけることは極力阻止します。親への怒りは私たち治療者にだけ向ければいい。あなたの娘さんが「親に会いたくない」というのは、その辺のところを自覚しておられるからでしょう。彼女は私という第三者の居ないところではあなたに会いたがらないはずです。
前回の母娘セッションは、むしろグリーフワークから離陸するための第一歩だったのです。これからは歯切れのいい怒りのセリフですべての事にあたろうとしている娘さんの人間関係パターンを理解し、変化させるという作業に入ります。
その変化は最初に私との関係の中で起こります。それがやがて「私と母親」という集団との関係の変化へとつながり、最終的には私抜きでの母と娘という関係を変化させます。
この試みが成功するための障害はあなたの「聞きかた」にある。
娘の言い分をあなたは片端から甘えと受け止めてしまうので、その意味を聞き取ることができない。娘はそれにイライラする。それを見るあなたは「あんなに大切に、可愛がって育てた娘なのに」と思い、「娘はヘンになってしまった」「病気だ」と思う。それを見て娘は一層猛り狂うというわけです。
あなたには娘の声を「意味」として聴けるようになるための訓練が必要です。この種のオープン参加のグループでもいいが、出来れば他の家の娘や息子の声も聴けるようなグループ・ミーティングに参加されるのがいい。そして、娘さんの言うヒトマネではない「自分の考え」を作って行く。
東京まで遠いところにお住まいのようですから、そう頻々とは参加できないでしょうが、こうした私の考えかたを理解して頂くにはもっと私との距離をつめて頂く必要があります。
あなたに「聴く耳」が出来れば、娘さんの怒りは鎮まります。その時にはじめて、彼女は自分を困らせている本当の問題について少しずつ語ってくれるようになるでしょう。(終わり)
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2007年01月25日
悪意を「飼い慣らす」ということ(1/3)
昨年は「星の王子さま」の新訳がいくつか出て話題になった。
その際、焦点になったのは apprivoiser というフランス語の邦訳で、「仲良くなる」や「友だちになる」などとも訳されたようだが、ここはやはり内藤濯訳による「飼い慣らす」しかないように思う。
王子が狐に会って「友だちになろうよ」というところで、狐が言う。「それはダメだ、俺は飼い慣らされちゃいないんだから」つまり「野生なんだから」。
飼い慣らされるとお互いに別れるのが辛いことになる。だから相手を飼い慣らせば、飼い慣らした方に責任が出てくるんだよ、と言うという文脈の中で出てくる。
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新年早々から妹殺しバラバラ事件の報道に接した。びっくりしているうちに渋谷や町田で見つかったバラバラ遺体が、妻による夫殺しとわかったという事件についても聞くはめになった。
去年の初夏に秋田県の市営団地で幼児二人が殺され、うち一人の実母が犯人だったという事件が騒がれた前後から、家族の中の親殺し、子殺しはいちいちに驚いている暇がないほど立て続けに報道されてきた。
「家族がヘンになってしまった」という人も居るが、ヘンだというなら太古からヘンだ。家族というのは緊密な人間集団だから、互いの関係が近すぎて様々な問題の温床になりやすい。
たしか女性の殺人の7割近くは家族を被害者にしていたはずだ。「ヘンになった」のではない。愛と慰めの巣と思われてきた家族が「ヘンであること」を知ろうとする勇気を、世間が持ち始めてきたということだ。(続く…)
斎藤学の講座・ワークショップ
| 講座名 | 日程 | 時間 | 料金 | 対象 | 会場 |
| 斎藤学ワークショップ | 3/3、4 | 14:00〜20:00 10:00〜18:00 | 31,500円 | 一般 | 東京麻布 |
| 斎藤学オープンカウンセリング | 火 | 18:30〜20:30 | 3,000円 5,000円 | 一般 | 東京麻布 |
| 親のための家族相談 | 火 | 18:30〜20:30 | 3,000円 5,000円 | 一般 | 東京麻布 |
※開催日については必ず各講座の詳細ページでご確認下さい
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2007年01月29日
悪意を「飼い慣らす」ということ(2/3)
私は精神科医で、いわゆる「危ない人」や「困った人」と接するのが仕事だ。
危ない人も様々に類別されるが、私がよく会うのは衝動的で自己破壊的な人、いつも寂しくて「死にたい」とつぶやいている。人の愛(関心)を求めていて、それが得られないと怒り、他人への攻撃を止められない人でもある。
こういう人々を精神医学的には「境界性パーソナリティ障害」というのだが、必ずしも世間でいう狂者ではない。この種の人なら読者の周辺にも何人かはいるだろう。
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そうした患者たちの中の一人の女性が妹バラバラ殺人の報道を知って「胸がスカッとした」と言うのを聞いた。
この女性は長女で、母から愛される妹をいつか殺したいと思い続けて生きてきたそうだ。
スカッとした、というのは彼女にとっては自然な感情なのだろうが、いわゆる「ふつうの人」が聞いたら仰天する。
しかしよくよく考えれば私もこれを読む皆さんも、この種の悪意からそんなに遠い存在ではないような気がする。他人を羨み、その人が持つ美質を盗み取りたいという感情を羨望というが、英国の治療者メラニー・クラインが、羨望こそ「諸悪を率いる王」と喝破したのは半世紀も前のことだ。これまでの人生の中で誰かを羨み、その者に備わる才能や美貌や人望を盗み取りたいと思ったことがない人など居ないはず。(続く…)
※斎藤学の講演「『クローゼットの中の骸骨』〜家族と殺人〜」」が2/12(月祝)に行われます。詳細お申し込みはJUSTまで。