2006年12月の一覧

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2006年12月01日

クレプトマニアと罪悪感(ブログ版)その6(4/5)

 この父親は妻と離婚してから数年、独身でいたが、やがて地方出のいかにも健康そうな女性をお手伝いとして雇うようになり、また数年してこの女性との間に子供ができたのをきっかけに再婚という形をとった。

 当時、兄は既に家を出ていてこの結婚に無関心だったが、大学に入ったばかりで家に残っていた「A」は猛烈に反対した。彼はこの結婚を認めないと宣言し、継母を母と呼ばず「あの女」と言い、女中扱いしつづけた。もっとも食事から洗濯から「A」の世話を焼いていたのはこの女性で、もっとも熱心に筆者と連絡を取り、「A」の治療に躍起になって協力していたのも彼女である。

===
 治療に熱心だったのは「A」を怖れていたからである。彼女は「A」が自分の赤ちゃんを殺すのではないかと思っていた。しかし彼女自身が襲われるとは全く考えていなかった。
 彼女は「A」の物腰の中に自分への甘えを感じていたのだと思う。素朴な人だったが、それだけに「A」の赤ちゃん並の欲求の本質が見えていたのだろう。それは「抱っこされる欲求」とでも言えるもので「A」は彼と向かい合う全ての人に、程度の差はあれ、この欲求を伝えていた。

 良く尋いてみると、「A」の盗癖には前駆症状があった。高校2年の時、継母がお手伝いという形で家にきて暫らくしてから、「A」は腹痛を訴えて登校しなくなった。
 腹痛は慢性の虫垂炎ということになって内科的な治療を受けていたが、全く食事が取れなくなって極端に痩せた。
 新しく来た「お手伝いさん」は、まずこの次男の世話にかかりきりになり、乳児におっぱいをふくませるような食事の介護が続いた。

 ようやく学校にも出るようになり、1年浪人して都内の美術大学に進学したところで、このお手伝いの妊娠、父親との結婚、出産という一連の出来事が起こった。前述の奇妙な盗癖は本物の乳児から、乳児としての自分の役割を盗まれ、オッパイを盗まれ、父親を盗まれたところから始まっているように思われた。
 「A」の周囲の人々に、この前後の彼の行動についてきいてみた。

 兄は「A」が、その頃突然訪ねて来たことを思い出した。実母の住所を聞きにきて、母が男のもとに走ったというのは本当かと尋ねたのだそうだ。
 「そんなことは知らない」と兄は答えたが、不思議に思った。というのは父母の離婚の時、動揺したのは自分の方で、弟はまるで無関心のように思えたからだ。その後この兄は弟に習って親には無関心になるように務めていると言い、どうやらそれに成功しているようだった。

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2006年12月04日

クレプトマニアと罪悪感(ブログ版)その6(5/5)

 実母もその頃「A」の来訪を受けている。

 家を出てから数年の間、兄とは度々会ったが弟は全く姿を見せなかったので、「私は恨まれているものと思っていた」と実母は言った。
 始めのうち母は喜んで「A」を迎え、要求されるままに泊まらせたりしたが、やがて苦痛を感じるようになって、アパートを変えた。家のものを「盗まれる」こともあったが、何か異様な欲求の所在を感じて、とても一緒に寝られなかったからだという。
 盗まれるものは金品ではなく、身につけるもの、特に肌に着けるものだった。

===
 父はこの頃「A」が、父親の宗教に関心を示し始めたことについて述べた。
 「A」は父親に対し、一貫して要求がましい不機嫌な態度しかとってこなかったが、乳児が生まれて暫らくしてから、父の属する宗教団体の合宿所(修練道場)に連れて行ってくれと頼んで父をびっくりさせた。

 どうやら「A」の原初的な欲求は発達に添った質的転換を受けないままに残遺し、より成熟した段階で生じる欲求と併存していたらしい。
 新生児に自分の立場を奪われたことを契機に「A」の精神は活発な成長期に入ったため、この併存が彼にとって苦痛なものになったのだろう。この苦痛の解決を求める動きが、一方では実母との距離をはかる行為として表現され、他方では宗教への関心となった。そして多分、嗜癖行動にも彼なりの積極的な意味があるのだと筆者は考えた。
 少なくともこれによって彼は「患者」という立場を確保できたし、患者になることによって自分の成長に伴う苦痛を治療者である筆者に預けることが出来たわけである。

 こんなふうに家族と連絡をとっているうちにも、「A」は次々と事件を起こした。警察ざたになる一方では、手首を切った、メチル・アルコールを飲んだと電話してきては「死にたい」を繰り返した。必要に応じて精神病院へ入院させたが、病棟では必ず人間関係の混乱を巻き起こした。

 特にわれわれが困ったのは入院ごとに看護スタッフの一人と深すぎる接触が生じることだった。その都度われわれの設定したグループ療法的環境は危機に追い込まれた。
 4回目、最後の入院の時に筆者は、「君は今の病院でも、私の外来でも癒らないと思う」と言った。当初から「A」の問題が精神病院の中で解決するとは思っていなかったが、患者の立場へ逃げ込むことを何回か許してしまった後で、これが彼の成長を止めてしまうことが確認できたからである。
 父親を呼んで、「A」を宗教団体の集まりに連れて行くように指示し、この指示が実行できないようなら外来に来る必要もないと伝えて退院させた。

 これで問題が片付いたわけではなかったが、事態の改善がみられるようになったのはそれからだった。彼は父親に連れられて地方にある宗教団体の合宿所に入り、そこで数歳年上の女性と出会った。
 それまでにも浅い、投げやりな疑似恋愛は繰り返されてきたのだが、この時の女性とはそれまでとは全く違う安定した関係が続いた。どうやらこの女性は魂の部分で彼に接し、彼を導いて欲求の出口を変えたらしい。

 筆者が期待したような悟りや急激な霊的体験は彼には訪れなかったようだが、これはこれで一種の奇跡と言えるかも知れない。
 2年ほどして、この女性との関係が不安定になった頃から、「A」は再び筆者の外来を訪れるようになったのだが、その時の彼を見て、かつてのギラギラした焦りのようなものがなくなっているのに筆者は驚き、憑き物が落ちるとはこういうことかと思った。

 もっとも精神医学的な問題が深刻化したのはかえってそれからである。
 かつてのような劇しい振り回しや自殺渇望はなくなったが、静かな抑うつと無気力が暫らく続いた。学業を断念したのもこの頃だった。

 その後、やや気を取り直して2、3の会社に勤めたが、そうした経過の中で、幻聴とも幻視ともつかない幻覚体験を訴えるようになった。オレンジ色の文章が目の前にぶら下がるのである。「もうだめだ」とか「あきらめろ」とかいった簡単な文章である。
 筆者の懸念ははずれて、それ以上の悪化はなく、やがて奇妙な幻視も消えた。
 かつての精気に満ちた「魔」の顔が消えて、現れ出たのは彼の父に良く似た陰気で無気力な中年男の顔だった。(終わり)

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2006年12月06日

また、万引きが始まってしまいました

◇20代女性

image061206.jpg'99年から5年ほどデイナイトケアに通い、当時は摂食障害と強迫神経症(確認癖)、盗癖がありました。いまは実家で暮らしています。

また、万引きが始まってしまいました。やっとおさまったのに、1ヶ月しかもちませんでした。せんせい、すみません。11月いっぱいで、いまの職場を辞めることになりそうです。たくさんお話をきいていただいて、パワーをもらって、なのに、すみません。ごめんなさい。

仕事のことは、今月にも空いた日にハローワークなどへ行って、次の職場を探すつもりです。
業種はやはり、また老人介護をやりたいです。仕事そのものは、ほんとうに好きなんです。働いていてこんなに楽しいのは初めてです。

===
この業界は、3K(キツイ、汚い、給料が安い)のせいで常時人手が不足しているし、此処は高齢者人口が多い地方都市なので、施設の数もそれなりにあります。次の職場のあてもあります。

なので、落ち込んだり反省したりすることはありますが、絶望して自暴自棄になるような状況ではありません。なのに、ドラッグストアの薬に手を出しました。
このままの私を受け入れてくれない社会にムカついたからです。(恥ずかしい理由です)
またダメになった。やっと半年がんばったのに、やっぱりダメだった。私はいつまでたっても社会人として失格だ。男性たちは、私をそのままでいいよと言ってくれた。
親も言ってくれた。でも社会は言ってくれない。私じゃ駄目だと言う。資質に問題があるという。協調性がないって言う。だって同僚は怖い。従業員がお客さまに対してどうすればいいかは判る。でも同僚、とくに上司に対してどう振舞えばいいのかいつまでたってもわからない。「お客さま」と「従業員」は役割だから、役を演じていればいいからラクだ。でも同僚・上司とは、対人関係を意識する。役割だ、って割り切れない。上司が偉いのがどうしてなのかわからない。社長まで上にいけば「給料をくれる人」だから偉いってわかるのに。

私が、いつまでも「世界でいちばん正しくて偉い人間」だからいけないんだと思います。
もう16年も前に、とっくに化けの皮は剥がれてしまっているのに、未練たらしくしがみついてみっともない。
中学1年、初めての定期テストで15番だったとき、私の神話にヒビが入りました。

小学2年のとき、どうやらウチの宗教はおかしい、すなわちそんな宗教にのめってる親はバカだ、と思いました。
前触れもなくキレて生徒を殴る担任教師のことも、どうかしていると思っていました。
そんな親や教師たちの言うことを盲目的に正しいと信じるクラスメイトたちも、バカばっかりだと思いました。
頼れるのは自分だけだと思いました。大人はどれもアテにならない、信用ならない。
自分で考えて判断しなくてはいけない。だから、世界でいちばん賢くならなくちゃ。
神様よりも正しい判断が下せるように。

16年前の定期テストで15番をとって、ショックをうけました。
小学校で100点をもらって天まで舞い上がってた私の足元の、梯子をスッとはずされたような感じでした。

今日は、アクセサリをたくさん盗みました。
夕方、自分の部屋まで帰って、それからしばらく呆然としていました。
欲しいものを盗りました。一円のお金も支払わず、欲しいものを手に入れました。私はそうしたかったかったから盗ったはずですし、タダで物品を手に入れたんだから得したはずです。
でも、部屋に座っていると、どんどん落ち込んでいきました。
たまらなくなって、先程フロイトラインに連絡しました。明日、治療契約をする予定です。

すみません。

斎藤学ワークショップで、半月ほど万引きしていないと報告したときの、斎藤せんせいの顔が何度も浮かびます。
せんせいは「そうなの、よかったじゃない」と言ってくださいました。
私は、せんせいが嬉しそうだったり笑ったりしているときの顔や声が大好きです。

いまお付き合いしている男性と、明日会います。
彼は私を好きだと言います。
はじめてそれを言われたとき、とたんに彼がごみのように無価値に思えました。

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2006年12月07日

クレプトマニアと罪悪感(ブログ版)その7(1/5)

0611cover_m.gif 以下の対談は、「アディクションと家族」23巻3号に掲載したものです。お読みになっていない方もいらっしゃると思いますので、ここに掲載します。

カバンの中が盗品でいっぱいだとすごい幸せ!
L男さん
聞き手 斎藤 学

 L男さんは39歳、目鼻立ちのはっきりした細身の男性。
 7年間の引きこもり生活の後、ジェイカJACA(日本アダルトチルドレン協会)に連絡を取り、生活保護を受け家を出て、96年からSクリニックに通院。デイケアメンバーのR子さんとの交際がきっかけで、万引きをするようになる。

 万引きを重ねるうち、2002年、G市のアウトレットモールでR子さんとともに逮捕され4カ月間の拘置、禁固1年半・執行猶予3年の有罪判決を受ける。
 執行猶予期間中に都内の衣料品店で再逮捕、医師の所見により再び執行猶予となる。現在はKA(クレプトマニアクス・アノニマス)に参加。万引きは1年以上止まっている。
 彼女の万引きに、「すげえな」と思った

===
斎藤 L男君の話はすごく細部が生き生きしていて、面白い。昆虫を飼ってて、雄と雌が交尾してるところを見て、無理やり引っ張って離そうとしたら、男根が抜けちゃったという話があったよね(笑)。

L男 管が切れて。2匹とも弱っちゃって(笑)。

斎藤 普通そういうのは、見たとしても話さないじゃない。そういう話を再現できるのは1つの能力ですよ。
 この人の診断名は何ですかと言ったら、強いて言えば、コミュニケーションの問題だね。自分の内部で完結しちゃってるでしょ。家から出ても気分は引きこもりのままで、人に甘えることもしないわけで、その必要も感じない。寂しくないでしょう、あんまり。

L男 そうですね、自覚したことはあんまり……。

斎藤 ないよね。だから、本当の意味では「治そう」というモチベーションもないんじゃないかと思う。それで済んでるから。強烈な寂しさがあって酒飲むとかいうのもないし。(続く)

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2006年12月08日

クレプトマニアと罪悪感(ブログ版)その7(2/5)

 万引きの話だけど、クリニックに来て1、2年たって、デイケアメンバーで一緒に帰る女性がいて、そのR子さんが急に道で倒れかかったんだよね。

L男 貧血で倒れて。

斎藤 それであなたが心配して、抱えたりして、同じ沿線の彼女のうちまで連れていった。そこで休ませて、それで一緒に住んじゃったの?

L男 そう。その日はそのまま彼女の家に……。
 でも、そこへ行くまではずいぶんかかって。最初は、僕はここのメンバーさんとは誰とも接触がなくて、ミーティングに出た後に声かけられても逃げ回ってて、R子さんだけは逃げても逃げてもついてきて。

 そのうち、彼女の方からちいちゃい手紙を渡してくるようになって。それで僕は「返事書かなきゃいけないと思うんだけど、書けないんだ」と言ったら、「一方的に渡すだけでいい」って。

斎藤 倒れかかる前に手紙だったの?

L男 手紙で。それまで「一緒に帰ろう」と言われても、僕は逃げてて。半年くらいしてから、ちょっとずつ……。

===
斎藤 R子さんの万引きを目撃したのは、いつ? 同棲が始まってから?

L男 うん……最初の頃は全然そういう問題はなくて。

斎藤 あなたみたいな人が女の人と一緒に住むなんて、イメージがわかないんだけど。

L男 R子さんがぶっ飛んでる人でしょ。現実感ない人だったから。お互いにそっぽ向いて、コマが一緒に2人いたというだけで、相手の顔見て会話したとかは……。

斎藤 でもセックスはしたんでしょ。

L男 最初は多少はしたけど、あんまりそういうのは……。

斎藤 それはどっちが?

L男 それは僕の方から。

斎藤 あらそう!

L男 何となくそういう形になっちゃうから。身体さわったりとかしてるうちに。風呂入ったりとかして。

斎藤 R子さんが倒れてから、セックスまでどのくらいかかったの?

L男 1週間くらいかな。わりと早かった。

斎藤 万引きまではどのくらい?

L男 万引きまではちょっと時間かかったと思う。はっきり覚えてないんだけど、1年かちょっと。

斎藤 万引きが始まったのは、R子さんがあなたとつきあってる間に別の男性にふられて、犬を飼い始めた頃?

L男 その頃かなあ。

斎藤 倒れた時から数えると、3、4年くらい?

L男 そう、その頃から。犬も2匹で精いっぱいだったのに、子どもが生まれたりして、最終的には13匹。(続く…)

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2006年12月11日

クレプトマニアと罪悪感(ブログ版)その7(3/5)

斎藤 最初に彼女の万引きを見たのはどこで?

L男 最初は、横浜のランドマークタワーにあるRというお店。レジ通ってないのに何か物を持ってる。「それ、どうしたの?」って言ったら、「実は」みたいな話をしたのが最初かな。

斎藤 現場は見た?

L男 見てない。

斎藤 その時どんな感じがした?

L男 えー。僕にとって、物を盗ってくるっていうのは、どこかで欲求があったみたいで、だから、ちょっとうらやましいというのはあったかも。膝を打つ感じ? 「すげえな」っていう。

===
編集 盗ったのは洋服ですか?

L男 その時はシーツだったかなあ。四角い何か。

斎藤 あなた自身は、いつ頃からやりだしたの?

L男 最初はこわかったから、R子さんに頼んでたのね。だって、R子さんは自分のものしか盗ってこないじゃない?
 こんなに心配してバクバクしてるのに、僕の物は何もないなんて悲しい。でも、自分が盗るにも盗れないでしょ。

 だからそれとなく、「あれとあれ、あるといいな」なんて言うと、R子さんが持ってきてくれる。その頃、M町にあるジーンズ屋さんがそろそろつぶれるっていう時、大きい店舗だったんだけど、R子さんにすごい頼みまくったかな。ジーンズ20本くらい持ってきてもらった記憶はある。

斎藤 自分で使おうと思って?

L男 使うというか、欲しいと思って。それまで自分の服とか買えなかったのね、母親がすごい厳しくて、「ゼイタクは敵だ!」って、質素倹約!!唯一許されても、母親の好みで「これ着なさい」って感じで。

 だから、その時は「えー、こんなにいっぱいもらえるんだ!」みたいな感じ? 母親もこんなにくれなかったのに、みたいな。うれしかったかなあ。こわかったけど。サイズもちゃんと言って(笑)。「これとこれとこれ、お願い」みたいな(笑)。

斎藤 自分でやるようになったのは、どのくらいたってから?

L男 半年たってないかなあ、自分で盗るようになったのは。その頃はR子さんがしょっちゅうつかまっていて、僕も一緒にいるから事務所に連れていかれるでしょ。そうするとR子さん、こわがらないのね。保安係が何か言っても、足組んで「文句あるわけ?」っていう態度で対応するわけよ。
 「バッグ見ていいですか」って言われると、「法的に見る権利はないと思うよ。見たきゃ見ていいけど、もしなかったら訴えます」って、すごい高飛車なのね。

 僕は、ほんと、申し訳ないっていうか。何度もつかまるのはやっぱこわかったかな。その頃から僕はR子さんに、盗み方があまりにもひどいと言ってて。服とか持ってくる時、見るからに着ぶくれしてるのね。それでも平気で彼女、半分ぽーっとした顔で出てきたから、ちょっとたしなめるようになって、「こうやるんじゃなくて、自然な形でやった方がいい」(笑)とか、いろいろアドバイスしてるうちにちょっと勇気出して僕もやるようになった。

 R子さんに頼んでるのも負い目があったから、自分でやった方がいいって。でも、競争してたかな。彼女はね、量がすごいの。僕はビクビクしてやるでしょ。持ってくる量が全然違うのね。(続く)

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2006年12月12日

クレプトマニアと罪悪感(ブログ版)その7(4/5)

斎藤 それはG市で逮捕される何年前くらい?

L男 1年半か2年ぐらい前かな。G市でつかまるまでの4、5カ月は、ほぼ毎日。朝から行って。
 盗品を積み上げるのはすごい快感

斎藤 今度の私の本(『自分の居場所のみつけかた』大和書房)で、あなたの万引きのことを「彼の人生において初めての自発的な仕事」と書いたんですよ。
 なぜかというと、万引きというのは親からすると禁止事項もいいところでしょう。あれだけ従順にお父さんやお母さんを心配していた人が、それを敢えてやった。いくらR子さんがいたからといっても、相当な思い切りがあったと思う。
 だから、価値判断なしに言えば、「やったじゃん!」ということだよね。自分でもそういうふうに思ってるんじゃないの?

===
L男 ああ。「上手にやったな」というのは。

斎藤 親との関係で何かない?

L男 親との関係?

斎藤 つまり、あなたのことはみんな親がわかっちゃってるわけじゃない?
 だけど、生活保護を受けたことと万引きは、親と相談していないよね。思春期の子がエロ本を見るようなもので、親離れです。やっぱり、あなたの中ではプラスのものがあったんじゃないの?

L男 ああ。アディクションも何もなかったし、何もやってなかった自分が初めて動けたなというのが万引きで。

斎藤 万引きは、ちょっとぞくっとする感じがあるの?

L男 すごい緊張高まって、成功した時はもう爽快感というか。ちょっとした罪悪感はあるんだけど、そんなのは後で何とかなる。
 カバンの中に(盗った物が)いっぱいあるでしょ、それがもうすーごい!

斎藤 R子さんに比べれば、まだまだ。

L男 まだまだ。でも、すごい幸せなのね! ほんともう舞い上がる感じ。

斎藤 社会から贈り物をどさっともらったような感じ?

L男 いや、そうは思えないんですけど。やっぱり、ただうれしい、とにかく。「こんなのアリなわけ?」って。今までなかったものがあるでしょ。ありえなかったし、想像もつかなかったものが目の前にある。目の前っていうか、ここにあるんだもの。それを自分でやってきたんだから、もうやめられなかった。
 それを部屋に持っていくと、もう待ってられないのね。すぐ空にして別の店に行って、1日に5往復6往復やって。

斎藤 株やってる人の心境かなあ(笑)。

L男 トイレも行けない。

斎藤 ああ、トイレ行けない感じか。

編集 盗った物がたまっていく快感はありますか?

L男 ああ、たまっていく快感はやっぱり、ある。
 僕が目標にしたのは、Tシャツに限っては、まず床に敷いたのをどんどん積んでいくのね。積んでいくと腰の高さまでとかなって、天井まで行くのが目標になって、天井まで1本積み上げるともう1本欲しくなる。
 結局天井まで2本積み上げて、Tシャツは3本目の途中でつかまって。

 靴とかも、部屋が全部靴でいっぱいになる。きっちり合わせてそろえていって、部屋の半分が靴でそろえて、2段目に行って、3段目に重なって。

斎藤 警官はびっくりしたよね。「これはプロだ」って。

L男 そうやって高さが積んでくると崩れるようになるから、R子さんの部屋にいた時は、あらゆる物でいっぱいだった。部屋の周囲は全部物であふれて、上まで行って崩れて。

斎藤 そこに犬もいるわけ?

L男 そうそう。当時は、敷きっぱなしの布団以外は全部「物」という感じになって、だから、ゴミ屋敷のゴミが全部盗品になってるような状態。今思えば。どっかでまずいと思ってるんだよね。こんなのおかしいし、「やめなきゃいけない」と思うんだけど、そういう意識は全然自分に影響を及ぼさない。

斎藤 G市でつかまって執行猶予になって、再逮捕されたのはどこでしたっけ?

L男 都内で、U(衣料量販店)。

斎藤 あれがわからないんだけど。なんであそこでつかまったの? しかも、Uって私の知ってる限りわりと警備が厳しそうじゃない? 店内が整然としてるし。

L男 いや、わりとUで盗ってきてる人は多くて。店員さん自身が物を盗んでるって話があるくらいだから(笑)。

斎藤 何を盗ったの?

L男 あの頃は、何かなあ。とにかく目につくものを。

斎藤 私の知ってる限りそれが最後ですよね。

L男 あの時は長袖のTシャツを何枚か盗って、バッグに入れてちょっとした時に気づいたんだよね。「あっ、見られてる」ってのがわかって。ヤバイと思ってそれを歩きながら(棚に)戻してる時に後ろからつかまれて、「ずっと見てたからな、言いわけしても聞かねえからな」って、店長と2人に両脇抱えられてそのまま事務所まで引きずられていって。その時はR子さんじゃなくて、K子さんと一緒にいる時だったから。

 何であの時、万引きしたのかな。自分でもよくわからない。
 ……ああ! G市でつかまって、盗った物が全部没収されたでしょ。没収されたのがちょっとくやしかったみたいね。また元に戻したいっていう気持ちがちょっとあったかもしれない。

 前はあそこまでたまったんだから、とりあえずあそこまで行ってやめようっていうか。1回そういうの知っちゃうと、なくなったのがすごく残念だったのかな。くやしかったのかなあ、持っていかれて。(続く…)

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2006年12月13日

クレプトマニアと罪悪感(ブログ版)その7(5/5)

斎藤 ほかのことで、「なくなったら残念だな」と思うものは、何だろう?

L男 (沈黙)

斎藤 物じゃなくて、抽象的なものも含めて。地位、名誉、金、学歴……いろいろな欲しいもの出してみて。

L男 全部当てはまるんだろうけど、僕は、そういうのを欲しちゃいけない、自分の意識でそんなものを欲求するのは「はしたない」っていう感覚……そういうのには超然としてなくちゃいけない、というのがすごいあって。それはたぶん父親の影響を受けてるのか、父親のそういうのを見ているのか。どこかに父親の姿が常にあるというか。

===
斎藤 あったものがなくなったというのは、言ってみれば「落ちぶれた」ってことでしょう? 落ちぶれてしまったから名誉を回復したい……。

L男 (沈黙)

斎藤 質問が難しいか。

L男 ええ、ちょっと。

斎藤 クレプトマニアの人って、つかまって、R子さんみたいにいばっちゃう人と、よよと泣きくずれる人といるけど、あなたはどちらなの?

L男 僕はどっちでもなくて、ひっくり返っちゃって、「すみません!」って。2回目の時は、子どもみたいに半泣きで「ヤダヤダ!」って言ってたの。引っ張られていかれるのをいやがって。執行猶予中だったから、連れていかれたらほんとおしまいだと思ったから、「今回だけは許して」みたいな感じで。むりやり連れていかれるのを後ろからK子さんが見て、びっくりしたって。

斎藤 K子さんがいるのによくやったね。いるからやったの?

L男 僕、その間も、K子さんがいないところでやってて、K子さんの部屋にまた(盗品を)積んでたのね。それでK子さんはそれをすごいイヤがって。部屋が狭くなるでしょ。整理しようとすると僕がすごく怒ったり、「僕の持ち物だからさわるな」とか言ったりして。K子さんも僕が盗んでるのは知ってたんだけど、その日は初めて腹くくったらしいのね。「あなたについていく」っていうか、そういうの許そうとかって言って、「じゃあ池袋まで行こうか」って行った日だった。
「行こうか」というのは「盗みに行く」ってことで。K子さんはそれまで「やめてほしい」とか「よくない」とか言ってたのを、「もうわかった。今日からは注意するのをやめる。もう止めない!!」と言って。

斎藤 出所してからどのぐらいでした? ほんとにわずかの間だった気がするけど、私は。

L男 6月に出てきて翌年の9月だから、1年と3カ月。

斎藤 そうでしたっけ。

L男 出てきて、その年はやったりやらなかったりで、その年が終わって、正月につかまる夢を見て、「これが正夢になっちゃいけないな、心しなきゃ」と思ったのは覚えていて、そしたら9月につかまったから。

斎藤 R子さんはG市でつかまって、わりとさっさと認めて田舎へ帰った。あなたは、頑固にしゃべらなかったから、刑事さんが私に電話してきて、「調べるとおかしくなるか」って言うから、「おかしくならないと思うから、普通に調べたら」と言った覚えがある。
クレプトマニアは確かに病気には違いないけれど、やっぱり有責性がありますよ。是非善悪の分別はあるんだから。病理性があるから云々という話じゃない。あなたについて言えば、クレプトマニアそのものの再発がどうこうというよりも、人間関係の変化に注目していたかな。つまりR子さんとはあれであっさりと……情的にはその前から切れてたかもしれないんだけど。
R子さんとK子さんとは、G市でつかまる前からダブってたわけ? あなたの頭の中で。

L男 いや、それは全然なくて、K子さんと話をしたのは出てきてから。

斎藤 R子さんは実家から帰ってきても、あまりクリニックに来なくなったしね。K子さんとの関係ができたのは、いつ頃?

L男 G市から出てきて少ししてから、K子さんとC子さんが仲よかったみたいで、ミーティングとかでたまたまC子さんと話すようになって、K子さんとも近づくようになって、ちょっとした話をするようになって、帰る方向も一緒だったというのもあって。

斎藤 「もう盗まないようにしよう」というのがあって、R子さんとの関係を切ったといいうことはあるの?

L男 ああ、そういうのも少しあったかな。あと、万引き以前に、R子さんとはちょっと離れた方がいいと考えてて。その頃はクリニックに行く行かないも自分で決められなかったというか……。行こうとすると、犬がいるでしょ。僕自身も犬が嫌いじゃなかったから、世話しなきゃいけないというのがあったんだけど、やっぱり自由を奪われてるっていう。
母親が来た後、またやりたくなる

斎藤 あなたがミーティングで「ラッパ犬」の話をしていたのはいつ頃でしたかね。

L男 それはG市の後で、警察からの呼び出しを待ってる時、僕はその頃K子さんのところに世話になってたから、自分の部屋に通知が来てるかどうか、見に行く途中にいて。

斎藤 「ラッパ犬」というのは、その通り道にすごくすさんだ表情の犬がいてね。皮膚病で、患部をなめないようにラッパみたいな首輪(エリザベスカラー)をしている犬がいて、それがすごく険悪な表情をしているから慰めてあげようとしているうちに、だんだん彼になついてきたという話。
これは、ミーティングですごいウケてたね。皆、感激して聞いていた。自分たちがラッパ犬みたいなものだから、それを認めてくれて癒してくれる人には、皆、憧れるわけ。

L男 自分自身を見てたんだと思う。その犬はちょっと関心向けると、うなり声あげて、扉に手をやると吠え出しちゃうのね。だから中には入れないんだけど、いつもひとりで寂しそうだから、ちょっとずつ、今日はこれだけ開けようとかやりながら、3カ月くらいして初めて牛乳で湿したパンを持っていったら、食べてくれて。今はしっぽを振る。最初は尻尾を振らない。ちょっと警戒してるから。本人も照れ屋で、尻尾振ったら、「あ、振っちゃった」みたいで、抑えちゃうのね。でも最近はお腹出すまでになったから。

斎藤 まだラッパしてるの?

L男 今はやっと取れて。でもあんまり洗ってもらってないみたいで、ちょっと臭くて、手が汚れるけどしょうがないと思って。

斎藤 何犬?

L男 柴犬。かなりおっきい柴犬。

斎藤 L男さんて、そういうところがあるんだよね。そのエネルギーがほかへ使えないかなと思うけど。癒してもらいたい人、いっぱいいるのにね。

L男 えー、逆。だって、今日のミーティングでも、僕のまわり、皆、息止まってる。

斎藤 気のせいだよ! そんなことはないよ(笑)。あなたがそう思ってるだけじゃないの? そんなふうに思いながらいるわけ?

L男 やっぱり僕の病的な反応で、ここ2カ月くらいちょっとそれがキビしくて。ミーティングで座っていられない。

斎藤 それは病的な反応だね、ほんとに。妄想性障害。

L男 自分がちょっと何かやると、変なふうに誤解されるんじゃないかってことも含めて、動けなくなっちゃうのね。下手に動いちゃダメって感じで。

編集 もう今は全然万引きはしていない? したくなります?

L男 時々、したいっていうか……。

編集 ぷっつりやめた?

L男 いや、その後も時々はやってて。それは斎藤先生に報告はしてたし、前ほどはやってなくて、時々。今思えば、母親がうちの部屋に来たりとか掃除した後にやってたのが多かったかな。母親は当時しょっちゅう僕の部屋に来てて、帰った後に。

斎藤 それはどうして? 関連がつかめると、ほかのことに行動が移せるからね。ほんとにほんとの話として、最後の万引きは?

L男 一昨年の8月25日が最後。

斎藤 一昨年の6月に執行猶予が明けて、執行猶予明けの前もちょこちょこやってたわけでしょう。

L男 執行猶予明けてもやってた。5月にもやったのを覚えてます。こどもの日にやったというのと僕の誕生日にやったというのを覚えていて。執行猶予中で1回出してもらったのにまたその間にもやったというので、なるべく抑えてたんだけど、母親が来て掃除した時にやったというのは覚えてて。

斎藤 お母さんも、G市以来、彼の家を突然訪れるようになってしまった。それは主にR子さんと一緒の時ですよね。彼女が悪いんだと言って。
あなたたちには、今、クレプトマニアクス・アノニマス(KA)をやってもらってるけど、あれはいつからでしたっけ。

L男 もう1年くらい。

斎藤 3〜5人のグループだけど、毎週ミーティングをやって何とか続いてるよね。見てて、どんな感じする? 万引きにどんな意味があるとか。

L男 今出ている人は万引きをやってる最中の人もそうだし、止めてるのは僕とM子さんなんだけど、ミーティングの場で何か気づけばいいなという感じで参加してるから、まだ「どういう意味があるか」とか全然自分ではわかってなくて。

斎藤 あなたとM子さん、T子さんに共通してるのは、一見、そういう必要がなさそうな人なんだよね。稼業として泥棒するような人はもともとKAに入ってこないわけだから。KAの人は、何かの代わりにやっているんだよね。お母さんが来た時にやっちゃうというのはすごく象徴的だな。「切れてるんだよ、おまえらとは」という意味?言葉にしたら。

L男 ああ。でも、親に対して、ほんと、感情が持てないのね。

斎藤 でも、お母さんが来るのがイヤだって言うじゃない。感情でしょ、それは。鍵が開かないと新聞受けから中を覗いていた、とか言ってなかった?

L男 それはR子さんのところの。覗き込んで、僕がいるかいないか、靴が見えるからね。開けたらすごい犬の臭いがしたから、「あんな臭い、近所に迷惑がかかるから」とかってすごい怒って。

斎藤 帰ると、きっちり掃除してあったりするわけ?

L男 最近は全然来た形跡を残さないで、帰っていく。でもわかるんだよね。最初のうちは置き手紙があったり、「今晩食べて」ってお弁当とかおまんじゅう置いてったりとか。

斎藤 そのあと盗むの?

L男 そう、なんか……。

斎藤 思い出してごらん。回想に浸ると何かわかるはずだよ。何でそのことと万引きがつながるのか。

L男 その時の出来事とかは自分でも覚えてなくて、それがきっかけになるよりはもっと過去の何かだったような感じがするのね。何かはわからないんだけど……。

斎藤 過去に親に対して従順だったこととか? 万引きって自己主張でしょ。「それはオレのなんだよ、わかってねえのか、てめえら」「それ、オレ欲しいんだよ」みたいな感じでしょ。

L男 うーん、そういうのたぶんあるかもね。だからほんと、自分の意識と感覚ではわかんないのね。

斎藤 それは練習だよ。やってることの意味を自分で言葉にしてみる練習をしていけば。

L男 うーん。食事で好きなものとれなかったのは、たぶんそことつながると思うんだけど。自分で好きなもの食べてもいいんだけど、いつも母親が「それはとってもいいけど、あんた、これはとらないでよ」って。

斎藤 そういえば、今回の3人はそれが共通してるね。M子さんもそうでしょ。養家で育てられて、その家にも娘がいたし。音楽学校に進んで。実の父親は一生懸命お金を出してる。そうすると、言いたいことも言えない。言えないというか、表現が鍛えられていない。彼女も最近はフルートも吹けるようになったし、何か割り切れたみたいね。
今は人の目が気になる

斎藤 あなたの場合、そういう吹っ切れた感じはまだないよね。かえって防衛がいっそうひどくなって、城壁を作ってその中で妄想してるような感じになってきている。

L男 ここ2カ月はちょっときついかな。街でも関係ない人の目が気になってる。僕が万引きしまくる前に、斎藤先生が「統合失調症に半分足踏み入れてる」と言ったことがあったけど。万引きやまって1年半たって、今、しらふっていうかちょっと現実が見えるようになったのか。
先生が言うには「妄想」だけど、いろいろな人のそういうのを全部読み取っちゃって、それがもう苦しい、バスの中とか。朝、サラリーマンとかいろいろな人の顔色とかも気になるぐらいだから。そのぐらい気にしてるんだね、やっぱり。吹っ切れないかな、そういう状態だから。

斎藤 薬使ってないよね、あなたは。使ってみる?

L男 だけど薬使っちゃうと、なんか……。自力でやらなきゃいけない気持ちがすごいあって。閉鎖しちゃまずいんじゃないかって。

斎藤 超覚醒でしょう、そういうのは。見えない視線が見えるし、聞こえない悪意が聞こえるわけだから。声になってないだけで、ドーパミンじゃぶじゃぶなわけですよ。

L男 慣れた方がいいんじゃないかって。

斎藤 いやいや!(笑) だめだよ!

L男 ああ。今までそういうのを見ないように、ごまかして万引きしたりしてきたから、今回はちゃんと腰据えてそういうこわいものも受け入れた方がいいかなと。

斎藤 こわいのは、それは変なんだから。

L男 ああ、そうか。でも、家にいた時もこれやってったと思うのね、たぶん。

斎藤 人間は共感脳というもので、お互いにわかり合った感じになって、幻想を一緒に感じているという幻想の中で暮らしている。それを社会と言う。だから、「向こうが敵意を出している」というのは、こっちの敵意が反射しているだけで、結局、閉鎖系なんですよ。それをしているのはドーパミン脳だと今では理解しているんだね、医者たちは。
だからそれを、ドーパミンをブロックする薬を使うことで、ぼやけさせるんじゃなくて、元へ戻すわけですよ。シャブ中が、追われてると思って人を殺したりするのと同じようなことになるとまずいからさ。

L男 僕が勝手に解釈してたのは、自分にあるものが相手に映ってるって言われたから、僕は自分のことは全然感じてないでしょ、怒りを感じてないから、じゃあ相手がそう思ってるのをはっきり見れば、自分がそう思ってるのを感じられるんじゃないかと思って苦しんでるんだよね。ほんとは自分がどのくらいイラだたせてるのか、怒らせてるのか知るために……。

斎藤 怒ってないよ。怒るというのは、相手に何か欲求を感じていて、それがないから怒るんだよ。「ミルクちょうだい」とか。それが怒りの本質だから。あなたみたいに自分で世界が完結しちゃってる人は怒りようがない。欠損がないから。

L男 じゃ、なんで妄想が出るんですか?

斎藤 代償みたいなものだね。自分が1つの世界の中に壁を作ってしまっているから、今度は壁に反響する声、悪意みたいなものが自分に戻ってくるわけ。あなたが見ているのは現実的な人の感情じゃなくて、自分の中で読み取っている感情なわけ。それが本当の現実だと思っているわけですよ。

L男 罪悪感か何かがそうさせている?

斎藤 罪悪感というか……あなたに徹底的に欠けているのは、社会とのコミットメントです。寂しさを感じていないと言うけれども、「ラッパ犬」じゃないけど、誰かの差しのべる手があれば、喜んでミルクを浸したパンも食べたいわけ。お腹も出して見せたいわけですよ。そういうのを厳密に1つ1つしらみつぶしにつぶしているのね、あなたは。そういうものが出てきたら、危ないから。つまり、欠損はないと言っているけれど、欠損を感じないように最初から期待しないようにしている。

L男 ヤセ我慢感みたいなのは、どこかでいつも……。

斎藤 P子さんは、中学から有名校に入ってそこに順応するのが精いっぱいだった。経歴から言ったら東電OL殺人事件の被害者女性と似ている。ああいう学校に普通のサラリーマンの娘が入ると、オーナー企業の人とか著名人の子どもがうじゃうじゃいるから、萎縮しちゃう。そのことを家に持って帰って親にグチったりもできない。親の期待する気持ちがわかるから、何も言えない。欲しいものが手に取れないとか食えないとかではない。貧乏人じゃないから。皆、経済的にはわりと潤沢で、しなくていい我慢をしている。

L男 高いものばかり望まれてるから、全然息抜くことができない。フリをしない生き方がわからない。

斎藤 M子さんも、お月様の表側だけ見せてきてるしねえ。フルートを吹く妖精みたいな自分を要求されてると思っちゃったんだね。P子さんは秀才かな。

L男 僕は、全然学歴もないし、だから……。

斎藤 そういうのは関係なくて、あなたが大学に入れなかったのは、その前に欲求が封殺されていているから。人より点数が上がるのを目指して勉強するわけでしょ。あなたにはもともとそういうモチベーションがないでしょ。

L男 両親に心配かけないことだけやってたから。

斎藤 勉強してるフリは?

L男 フリはしてた。

斎藤 クリニックでやってることって、フリをやめて地で行っても大丈夫だということをわかってもらうことなんだよね。

L男 地がない。こう言うのはおかしいんだけど、地がないと思う。

斎藤 それは、親や世間が要求しているものを勝手に作って、それと違うところで「地がない」と言ってるんだよね。
クレプトマニアというのは、私はそういうものだと思うんですよ。社会とのコミットメントがない。社会と、本当の意味で現実的につきあっていない人たちじゃないかと思うんだけど。勝手に妄想的な「自分はこういうふうに要求されている」というのを作りあげて、そこにこもってるんじゃないか。生身の自分が世界と接していない。それで逮捕されてメーメー泣いたりしていると、自分の着ていた鎧に裂け目ができる。

 それと、自罰感情。どこかで自分を責めてる。自分を責めるところへ追い込んでいる「あいつ」のことを怒る。これは、欲しいものをくれなかったから怒るというのじゃなくて、憎しみだな。恨みみたいなもの。関係を断ちたいんだ。

 人の持っているものをうらやむという点では、エンヴィー(羨望)にも似ている。恨みと羨望。2つとも怒りから発生するんだけれども、それが、腐ったものなんだね。そこまで来ると、相手との関係を持とうという気にならない。関係を切りたい。それが親だったらいいけれど、世間とそうなっちゃうとまずいね。
世間にもいろいろな世間があって、あなたを受け入れたい、あなたといい関係を持ちたいという世間−「すさんでるよね、この人」と言って手をさしのべてくる人、パンを食べさせてくれる人もある。それを信じられるかということ。M子さんは、信じられるようになった。

L男 僕は、信じる勇気がないっていうか、「寄るな」って感じ。放っておいてもらいたいという気持ちがすごく強いみたいで……。

斎藤 また新たなゴールが見えてきたね。クレプトマニアがなくなって、1年たったら妄想が出てきたというが今の段階だなあ。

L男 今は「妄」と言うよりも「想」。人のちょっとした表情もだめ。

斎藤 ラッパ犬は君の回復モデルですよね。哺乳類は相手と関わりがないと魂が死んでしまう。ラッパ犬の話は峻烈な話だよね。今度、写真撮ってきてくれない?

L男 目がすごく優しくなって。ほんと穏やかな顔になって。

斎藤 それが、私がこれからL男君に求めるところですね。

アディクションと家族23巻3号【特集】クレプトマニア

斎藤学の講座・ワークショップ

講座名日程時間料金対象会場
斎藤学ワークショップ3/3、414:00〜20:00
10:00〜18:00
31,500円一般東京麻布
斎藤学オープンカウンセリング18:30〜20:303,000円
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