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2006年07月18日
外傷性記憶を解凍する(6/6)
(続き)
(S)同居していたお父さんも知らなかったとすると、お母さんも知らなかったわけですね? お母さんは今お父さんと一緒にいるようだけど、どうなっちゃっているの?
(Q)随分長かったように思っていたのですが、この前先生と話してから良く考えてみると、父と母が別れていたのはたった3年たらずだったようです。離婚はしてなかったらしくて、ウヤムヤのまま、私が中学を出る頃にはそれ以前のように母と弟妹が戻ってきていました。
でもこうしたアレコレについて何の説明もなかったし、子どもたちも私をはじめ何も言いませんでしたから、家ではあの数年は無かったことになってます。何も話されなかったことで私は助かったと思っていました、つい先日まで。あそこまでされたことは、まだ父親にも言ってません。
その高校生は1年後、東京近県の大学に受かったのを機会に私の家族には寄りつかなくなりました。彼なりに危ないと思ったんじゃないでしょうか。私としてはこの機会にあのとき彼がしたことを彼に憶い出させてやろうと思っています。父とその不動産屋とは今でも付き合いがあるようですから、調べればどこにいるかわかるはずです。
こういうの止めた方がいいのですか?
===
(S)記憶の中のあなたを救う仕事ですよね。救いかたはいろいろあると思いますが基本は忘却の霧をはらってあげて、その頃のあなたをあなたの人生の中に織り込むことです。
今、あなたはそれをなさっているのだから、その「仕事を続ける」ことを先にした方が良い。その上で、どうしても憶い出せない細部があったりして気持ちが悪いということであれば、その元高校生と会うのもいいでしょう。
もし復讐で会うというのなら、その悪意であなたも傷つくことは覚悟しなければなりません。言っておきますが、復讐に成功することと体調が改善することとの間には関連がありません。
いま、「仕事を続ける」と言いましたが、ここで記憶を語られたことをそのままにしておかない方がいいのですよ。このことをミーティング(グループ療法)の場で話してみるのです。ミーティングで話すのと、この部屋で話すのとではずいぶん違います。
この部屋では私以外に聞いている人は居ませんが、ミーティングで話すとなればその場にいる沢山の人々の誠意と傾聴を信じなければならない。
緊張します。その緊張があなたの記憶に刻印されます。つまり、ミーティング場でトラウマ記憶を語ったという記憶がこのトラウマ記憶そのものに「上塗り」されるのです。それを繰り返すと、トラウマ記憶が不意に襲ってくる、いわゆる「フラッシュバック」が減ります。何故なら、トラウマ記憶に変化が訪れます。なぜならその記憶が浮かぶたびに、聴衆の皆さんを信じ、思い切って話した「ミーティングの場の記憶」が一緒に出てきて古いトラウマ記憶の生々しさが、近い過去の記憶の生々しさに取って替わられるからです。
やがて、トラウマ記憶はあなたの沢山の記憶の一つに過ぎなくなる。そうなったら、その記憶は「普通の記憶」として記憶の陳列棚のひとつに並ぶでしょう。それなりのタイトルが付けられて、整理されて。あなたは必要なときにその「記憶ファイル」を取り出すことができるが、普段はそのことの影響を受けなくなる。
こうして整理されない記憶がトラウマ記憶と呼んでもいいですね。どこかの棚に乱雑に載せたり、床に投げ捨てたりしている記憶は、ときどきあなたの頭の上に落ちてきて瘤を作ったり、脚をつまずかせて捻挫させたりします。それがフラッシュバックやパニック発作です。
そうしたゴミのように散らかった記憶の断片が室内に漂っている状態があなたの無気力や抑うつを生み出します。
Sのコメント
この後、「A」さんは○○相談室のミーティング(オープン・カウンセリング)の場で自分の外傷体験を何回かに分けて聴衆(クリニックの受診者たち)に話した。その結果について「A」さんは私への手紙の中で次のように述べている。
「先日、先生に向かって『橙色の光』の憶い出を話しているとき、不思議な感じがしました。なぜならこのことを私はいっときも忘れていなかったからです。忘れていないことが何故憶い出せなかったのでしょう。不思議です。
それはともかく、怖いと抑制してきた記憶を先生に話すうちに、あの屈辱の場面の記憶に奥行と幅が出来て、そうなるともっと細かな点での疑問がいろいろ出てきたり気づいたりするようになりました。
それでミーティングでの話が先生に話したものと幾分違ったのです。話しているときには怯えで手がふるえましたが、その場にいて聴いてくれているメンバーの人たちの気配を感じて恐怖が少しやわらぎました。
あそこで話せるようになるまで5年かかりました。この間いくらかは良くなっていたのですが、心の奥の不安と怯えは取れないままでした。「あの事件」は私にとって巨大でグロテスクなかさぶたのようなものでしたが、シェア(ミーティングで体験を話し分かち合うこと)をしたら急速に重量感を失いパラリとはがれ落ちました。胸の痛みが楽になりました。あの一連のシェアで私が得たものは、それまで切り捨てていた過去の自分とのつながりでした。」
最後にひとつ指摘しておきたいことがある。「あの事件」に遭遇する以前に「A」さんは「母の気分に操作される傷ついた子ども」だったことである。彼女のレジリエンス(ストレスを吸収する弾力性)があれほどに脆くなかったら、「あの事件」は起こらなかったかも知れないし、起こったとしても、その後の経過は随分と違ったものになっていただろう。
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2006年07月18日 10:49:[←ブログメインに戻る][←IFFトップページへ][↑ページ上端へ]