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2005年11月07日
知事対談「子どもは誰が守るのか 〜家族の変容と崩壊をめぐって〜」(3)
◇浅野史郎(宮城県知事)
◆斎藤 学
地域力の低下をどう補うか
◇浅野
斎藤さんがこれまでやってこられた活動の積み重ねの中で、官の側に対して、「こういうことをしたらいいのに…」ということはありますか。
◆斎藤
事件や問題を起こしている家庭に共通して言えることは、まず、家族全体が地域から孤立化しています。家の中に地域の人の出入りがない。
それから、性的虐待は非常に発見しにくいんですが、例えば女の子の場合、学校の成績が急激に下がるとか、中学に入ってから夜尿が復活するなどの問題があれば、当然それを疑うんだという観察眼を学校の先生たちが持たなければいけません。
◇浅野
「気づき」ですね。「おかしいぞ」と思ったならば、それを把握して、対処するなり、しかるべきところに相談、報告するという体制。
◆斎藤
栃木県で親が二人の子どもを橋から川に投げ込んだ事件がありましたが、事件が起こる前からコンビニの店員が子どもの様子をみて危慎していたんですよ。そういう地域の目というのがあって、これは今の日本人が大嫌いな地域のおせっかいですよね。しかし、地域力とは一体何だといったらば、地域のおせっかいやきの力なんですよ。
◇浅野
おせっかいの勧めをしなくてはいけないですね。
◆斎藤
私はそう思っているんですけどね。今みたいに極端に家族単位になってしまっていると、そこの親にちょっと問題がある場合に、地域からの介入がないと非常に間題が進んじゃうわけですよ。
それから、田舎の方が都会よりも地域力があるとは言えないんですよ。田舎は高齢化が進んでいて、住民そのもののケアがまず大きな問題ですからね。そういうことを考えると、地域の若い夫婦の子育ての問題にその地域の人たちが関わっていけるように、行政がなんとか「おぜんだて」できないのかなと思うんですよ。
学校の先生とか保健師などは、本来そのような問題に関わっていく責任のある立場にありますが、現状では、まず人数が圧倒的に不足していますし、トレーニングももっと必要です。
だから、私は市民に立ち上がらせないとだめだと思っているんですよ。子どもの虐待問題に関心を持っている人や何かしたい人はたくさんいますから、行政がNPOなどの市民団体を支援して、講習会なんかをどんどん開いてもらう。そうすれば、そういう人たちに、カウンセリングの技法とか、虐待のリスク要因とか、児童相談所に通報するべきケースとか、そういう基本的なことを教えてあげることができます。
◇浅野
例えば、地域に住んでいる退職した人で、意欲と能力と時間がある人を活用することはできないかと思っているんですが、やはり、最低限のトレーニングというのは必要なんですね。
◆斎藤
そうですね。でも、私は、一番いい援助者になれるのは、自分自身が加害者だったり被害者だったりした人だと思うんですよ。
例えば、かつて妻に暴力をふるっていた男性が改心して、今度は、妻に暴力をふるっている男性の相談に応じる。それから、被虐待女性同士の支援というのは非常に強いですよ。
◇浅野
ピア・カウンセリング(注4)ですね。
◆斎藤
そうです。そういうのを私は血縁や地縁とは違う、「問題縁」といっているんですよ。例えば、「不登校児の親の会」とか「引きこもりの親の会」とかね。
横浜のある造成団地の話ですが、全部で250世帯あって、その中で引きこもりが30数人いる。親は50歳代で、引きこもっているのは30歳前後ぐらいの人です。こういう引きこもりへの対応は、私みたいな専門家だけでは無理ですし、引きこもっているというだけで他に問題を起こさなければ、役所が出て行くわけにもいかないでしょう。
そういうときに、引きこもりの子どもを抱えて悩んでいる親たちが、例えば「引きこもりの親の会」といったような組織体をつくって、私のような専門家などを呼んで、引きこもりの子どもにどう対応したらいいのかということを訊くことはできる。
そういう人たちに行政が力を貸すということをやればすごく効果的だと思います。
◇浅野
そうですね。
◆斎藤
児童虐待でも少年事件でも、個々の事件を詳細に取り上げていくというよりも、こういった全体に流れている構造を見定めて対処していくことが大切だと思うんですよ。そして、それらに通底する構造というのは、家族が地域から分離していたり、あるいは地域の崩壊といったことで、実は都市部よりも、郡部で起こっているんですよ。都市部と田園部との中間地帯で起こっている。
◇浅野
そういったところで孤立すると、もう逃げ場がないというか、孤立感がますます深まりますよね。都市部での孤立というのはよく言われてましたし、ほかに逃げ場がありますからね。
◆斎藤
家族から阻害されても、別のコミュニティーの中へ入っていける。ですから、問題縁でつながった疑似家族みたいなものをつくって、それを一つのコミュニティーとみなして、行政が援助していくのが一番上策だと思いますね。
◇浅野
そうですね。行政の手法にどうやって翻訳するかというとなかなか知恵が要りますが、今日は斎藤さんから答を出すヒントをみたいなものをいただいたような気がします。
どうもありがとうございました。
注4【ピア・カウンセリング(peer counseling)】
悩みや問題を抱える人、かつて抱えていた人が、自らの体験に基づいて、同じ悩みや問題を抱える人の相談に応じ、問題解決を図ろうとすること。
(みやぎ政策の風 2005年9月 vol.4 より)
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