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2005年11月04日

知事対談「子どもは誰が守るのか 〜家族の変容と崩壊をめぐって〜」(2)

◇浅野史郎(宮城県知事)
◆斎藤 学

子どもの問題は「家族」の問題

image051028_3.jpg◇浅野
 斎藤さんはご自身のクリニックで、家族に起因するさまざまな問題を抱える人の診療をなさっていますね。そういった人たちを、改善の方向に導くためには、どのような対処をするのですか。

◆斎藤
 私は、多くの20歳以後の精神障害の背景に子ども時代の養育状態、特に児童虐待があるのではないかと見ています。親からの過大な期待に縛られるというのは普通は児童虐待と言いませんが、それらも含めると、幼い頃の養育環境の影響は決定的だと思います。
 そういったことを考えていくと、若い人を診る場合、結局、家族療法的に接した方が効果的なんですね。一人の子どもが問題を起こした場合、ほかの子どもたちへの影響が出ている場合が多いですしね。
 また、特に思春期の子どもは診療を受けに来ませんが、そういう場合でも、子どもと一回も会わずに親とだけ話していて問題が解決することが多いんです。

◇浅野
 子どもの問題に対処するためには、日ごろ一番関わっている家族ぐるみで診る必要があるということですか。

◆斎藤
 はい。親の子どもへの接し方を変えてもらうだけで、子どもの問題行動というのは大幅に修正されるわけです。しかし、現実に、虐待を受けて育っ子どもというのはいるわけですね。世間を震憾させた池田小児童殺傷事件や奈良女児誘拐殺人事件の犯人は、子ども時代に虐待を受けていたことがはっきりしています。
 こういった犯罪が起きてしまった後で捜査にかける莫大な費用というのがあるのならば、なぜ児童虐待の予防にもう少し意を注がないのかと思います。

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「子どもの虐待防止センター」の取リ組みを通じて

◇浅野
 斎藤さんが児童虐待の問題に取り組まれたきっかけはどんなことだったのでしょうか。

◆斎藤
 私が最初に児童虐待と関わったのは、大田区あたりで血を流して毎晩さまよい歩いている子どもを見た保健所の職員がいまして、その場で警察に連絡すると保護はしてくれるんですが、だれもその原因を真剣に考えてくれなかったというので、その家を訪問したんです。そしたら、そこにけがをしている8歳児のほかに、体にあざのある1歳児もいたんです。8歳児なら外へ逃げられるけれど、1歳児では無理ですから、これは大変だと。
 それで、その子どもの母親に介入、要するに「おせっかい」をした。父親は覚せい剤とアルコール依存ですから来られないので、母親と私との間で接触が始まったわけです。ところが、この母親は、夫が子どもを殴ると、子どもを盾にして逃げてしまうような人で、親としての保護の能力がないんです。
 それで、困りまして、児童相談所に介入をお願いした。ところが、今は違いますが、当時の児童相談所は、「ここは親と子どもの仲をよくさせるところだから、親から子どもを取り上げるなんてとんでもない」ということでした。これが1990年前後の話です。

◇浅野
 15年ぐらい前の話ですか。それ程昔のことではないですね。

image051028_2.jpg◆斎藤
 大昔ではないです。そこで、児童相談所にもっと児童虐待という問題を知ってもらいたいと思いまして、1992年に「子どもの虐待防止センター」という民間団体(注3)を立ち上げました。児童虐待の問題をなんとかするには、民の力で動かないとだめだと思ったんです。
 センターを立ちあげた当時、まず手はじめに、新聞記者を集めたりして児童虐待問題についての広報活動を行いました。「児童虐待」という名前がついて、それがみなさんに認識されないと、報道もされないし、問題として確定されないですから。紆余曲折ありましたが、実際に、センターを立ちあげてから十数年の間に、児童虐待の問題については随分環境が変わりましたよ。

◇浅野
 「子どもの虐待防止センター」は民間団体として立ちあげれらたので、権限があるわけではないですよね。例えば児童相談所ならば、今は一つの権隈として介入できますが。しかも被害者である子どもは積極的には訴えてきませんから、加害者である親に対してまさに「おせっかい」として介入していくわけですね。

◆斎藤
 民から民への介入ですね。

◇浅野
 センターの活動をしていくときに、権限がないということで、やりにくさというのはありますよね。

◆斎藤
 もちろんありますが、逆に官から民へ介入するときには、違う意味で配慮しなければいけないことも多いでしょう。民から民への方が「おせっかい」としての介入という意味ではしやすい面もあります。
 それから、官と民との連携は不可欠です。児童相談所がケースとして取り上げるまでに何度も会議を開いたりして、その間に子どもが死んでしまうということもありますから。センターで関わった事例でも、例えば、子どもが病院に入院した段階で、センターと児童相談所のケースワーカーとで連絡を取り合って、次の事件が起こらないように、病院の医師を通して親に圧力をかけるということが何度もありました。

◇浅野
 児童虐待の場合、そういうケースの発見とか見い出しが出発点になりますが、「子どもの虐待防止センター」では、虐待の通報についてネットワ-クとしてシステム化されているんですか。

jaspcan.gif◆斎藤
 センター設立当時、仕事で子どもと接触している人でも、児童福祉法第25条の通報義務の存在を知らなかったということがありましたから、いろんな形で講演会を開いたりしましたが、今になって考えれば、これが着実に成果を上げていたと思います。
 やっぱり民の力というのは、すごいですよ。官は民の活動を補完していくしかないんです。

 例えば、ドメスティックバイオレンスも家族内の一つの病理ですが、最初はそのような見方はされませんでした。実は、私は、児童虐待問題の前に、アルコール依存の夫から妻への暴力の問題に関わっていまして、夫本人に関わるよりも、その妻を「共依存症」という病気として治していった方がずっと効果的だということを証明してきました。被虐待児は、そういったアルコール依存の夫とその妻の子どもの問題として最初は浮上してきたわけです。

 また、アルコール依存の親を持つ子どもは、大人になってからアルコール依存者になったり、その妻になったりすることもわかってきました。別々の問題ではなく、みんな一つの問題なんです。
 そして、こういった問題を取り扱うときに、経験上、一番効果的だと思うのは、民間の団体です。「子どもの虐待防止センター」もそうですが、活動を進めていくうちに世の中の流れが少しずつ変わってきて、2000年に児童虐待防止法ができ、2001年には配偶者暴力防止法ができました。民の活動を官が補完していくという形で進んでいます。

注3 平成9年からは社会福祉法人。

(みやぎ政策の風 2005年9月 vol.4 より)

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