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2005年11月01日
知事対談「子どもは誰が守るのか 〜家族の変容と崩壊をめぐって〜」(1)
◇浅野史郎(宮城県知事)
◆斎藤 学
社会の変化と子どもの変化
◇浅野
今回は、児童虐待や子どもの事件、子どもの問題行動など、子どもを取り巻くさまざまな問題についてお話を伺っていきます。私が子どもだったのは随分昔のことではっきりとは覚えていませんが、今と昔とでは子どもをとりまく環境も違っていますし、子ども自体も変わっているような気がしますが。
◆斎藤
そうですね。まず、都市化の影響がありますね。それから、知事のお生まれになったベビーブーマーの時代には、都市部へ人口が流入して新しい家族がたくさん生まれ、核家族化が進みました。ですから、その時代の前と後では、家族というものがとても違うものになっています。子どもというのは、悲しいことに外部に大きく影響されて育っていきますからね。
しかし、子どもがいろんな事件を起こすというのは、最近急にそうなったのではなく、実際はずっと昔からあって、それが最近、「子どもの事件」として急に騒がれるようになったというだけの話だと思います。要するに、世間の焦点の当て方なんですよ。
◇浅野
それもあるでしょうが、家族の形態の変化が子どもの人格形成や社会性、行動様式などに影響しているということは言えるのではないですか。
◆斎藤
確実に言えるのは、子どもの一番の特徴は大人に比べると衝動の統制力が弱いということです。要するに、バランスがとりにくいということで、怖い人に抑え付けられると萎縮してしまうし、ちょっとほうっておくと無秩序に流れるわけです。このバランスをとっていくというのが教育ですよね。
また、小学校の高学年くらいの子は、自已愛が非常に強いですし、大人に比べると怒りの統制力が弱いですから、自已愛を傷つけられると事件になってしまうことが多いですね。
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◇浅野
犯罪までいかなくても、学校でいうと、授業中に子どもたちが歩き回ったり、学校崩壊といわれるようなことになって、先生が立ち往生するようなことは、3、40年前には考えられなかったような状況だと思いますが、何が問題なのでしょうか。
◆斎藤
問題は二つありまして、一つは、十数年前から病気として注目されるようになった、ADHD(注1)やアスペルガー障害(注2)などの情緒障害の子どもたちの問題。
もう一つは、兄弟の数が減っていますから、昔のように長男がたくさんの兄弟を仕切っているというようなことがなくなって、一つの集団としての子ども世界の中での秩序形成力が落ちているということは確かです。これは現代家族の問題ですね。
◇浅野
それはあるのでしょうね。
◆斎藤
ですから、クラスの中に多動の子がいたりすると、周りの子もそれに乗ってしまうということが起こるんですね。
◇浅野
いじめなども、昔は、いわゆる「ガキ大将」がいて、「いじめるなよ」と止めてみたり。
◆斎藤
そうそう。でも、今はそういったヒーロー的な子どもというのは排除されてしまうので、無秩序の増幅が起こってしまうんですね。
◇浅野
俗説かもしれませんが、テレビやゲーム、携帯電話、インターネットなど、3、40年前にはなかったものが子どもの世界に入り込んできて、それにどっぷりつかって育てられているということの影響というものはあるのでしょうか。
◆斎藤
情報が各方面から入ってくるということは知的発達を促すはずなので、そのためにということは余り考えられないです。しかし、一つ言えることは、ゲームにしろテレビにしろ、そればかりに閉じこもっていると、他者との関係が希薄になりますから、現実性を持った人間関係について学ぶ機会がなくなってしまうということは間違いないでしょうね。
◇浅野
そういったある意味ではちょっとした問題のあるような子どもたちが、社会的プロセスを通じて大人になっていくというのが「育つ」ということだと思いますが、今の社会では、そういうシステムとかメカニズムがしっかりと機能しているのでしょうか。
◆斎藤
大事なことは、多様性をどれだけ認めるかだと思うんです。ひと昔前よりも、一見、選択肢が増えているようにも思えますが、実際には、例えばテレビで伝えられる情報というのは一面的な場合があり、それを見た子どもにとっては、テレビに出てくるような人が偉い人になってしまう。こんなに子どもたちの価値観の画一化が進んでいる時代はないんじゃないでしょうか。これは世界的に共通な事象だと思います。
それから、学校教育に余りに期待し過ぎているところがありますね。子どもがとりあえず学校に行っていればそれでいいというので、家庭や地域の力がなおざりになっているところがありますから。
ただ、子どもたちはどちらかというと、学校というよりも、親の進学とか高学歴化への期待みたいなもので押しつぶされています。日本で士農工商の身分制度がなくなったのはずっと昔のことですが、今は学歴による階層化がそれに代わっているようなところがあるでしょう。これが親たちの学歴圧力という形で子どもたちを傷め付けているんです。
◇浅野
教育が選別の過程になってしまっていて、その中で、親が子どもに手っ取り早く幸せになってもらいたいという思い込みを、子どもに押しつけてしまっているということですかね。
◆斎藤
それは確かに言えると思いますね。
◇浅野
少子化の影響についてはどうでしょうか。
◆斎藤
日本では、富裕層の家庭では、子どもの数が増えるというのはステータスになっていて、しかも、子ども一人ひとりに過大な教育投資をしています。それとは逆に、ごく平均的な所得の家庭では第二子を産むことに躊躇している。経済力とリンクしているんです。
◇浅野
昔は「貧乏人の子だくさん」と言われたものでしたが。
◆斎藤
そういう言葉は死語になってしまいましたよね。これが日本の人口構成の特殊性で、それが今の日本の子どもたちの問題ともつながっています。教育の基本は家族ですからね。
先ほど、子どもは自己愛的だと言いましたが、一人、二人の子どもに過大な教育投資をして育てると、子どもは親の期待を読み取りながら生きていますから、親の言葉や表情から自分で勝手に「私はだめなんだ」と判断して挫折してしまったりします。それから、家の中では「王様」ですから、自己愛を抑制できない、非常に傲慢な子どもになってしまうわけで、当然、学校や社会に適応できないということが起こってしまうのです。(続く…)
注1【ADHD(attention-deficit hyperactivity disorder)】
注意欠陥多動性障害。注意力障害、多動性、衝動性を特徴とする行動の障害で、発達精神障害の一つ。注意や集中力を持続できない、じっとしていられない、話を最後まで聞けないなどの行動の特徴が見られる。
注2【アスペルガー障害】
知的な発達に遅れがないタイプの自閉症。言葉の発達や遅れはないが、言葉の意味の理解やコミュニケーションが苦手で、社会性に困難がある。
(みやぎ政策の風 2005年9月 vol.4 より)
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