2016年11月の一覧

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2016年11月02日

『生き心地の良い町』(2)

 さっそく本を購入してみました。

 いずれの章も興味深く読んだのですが、とくに惹かれたのは「町で見つけた五つの自殺予防因子ーー現地調査と分析を重ねて」(第二章)でした。
 著者は、第二章を

(1)自殺予防因子ーその一 いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい
(2)自殺予防因子ーその二 人物本位主義をつらぬく
(3)自殺予防因子ーその三 どうせ自分なんて、と考えない
(4)自殺予防因子ーその四 「病」は市に出せ
(5)自殺予防因子ーその五 ゆるやかにつながる
 
 という自殺予防因子となる要因ごとに分けて書いているのですが、そこに出てくる町の人々のエピソードが、とってもユニークでした。

「赤い羽募金が集まらない」町

 たとえば「自殺予防因子ーその一」の最初には「赤い羽募金が集まらない」という個人的にはとっても共感を覚える話が載っています(39~42ページ)。
 
 隣接する他の町村では、募金箱を回すだけでみんながおとなしくほぼ同額の募金を入れて次へと送ってくれるのに、「旧海部町ではそうはいかない」というのです。

 町の担当者が募金をお願いすると「だいたいが赤い羽て、どこへ行て何に使われとんじぇ」と言われ、「すでに多くの人が募金をした」(担当者)と言ってみても、「あん人らはあん人。いくらでも好きに募金すりゃあええが。わしは嫌や」とはねつけられるそうなのです。

 しかも著者が言うには、たんなるケチやわからず屋というのではなく、「わしはこないだの、だんじり(祭りに引く山車)の修繕には大枚をはたいたけどね。ほないわけのわからんもん(赤い羽募金)には、百円でも出しとうないんや」(40ページ)と、筋の通ったことを言うのだそうです。

大きな声では言えないけれど・・・

 大きな声では言いにくいのですが、実は常々、私も同じように思ってきていました。なんとなく「さまざまな地域福祉の課題解決に取り組む、民間団体を支援する」(赤い羽根共同募金)ことに使われるのは分かっていますが、いまいち釈然としません。

 そして何よりも自治会や駅頭に子どもが立って一斉に「募金お願いしまーす!」と叫んだりして集めるあの「断りにくい雰囲気」に大きな違和感を持ってしまうのです。「好意をかたちに」という表向きとは裏腹な、ある種の強制力を感じてしまうからです。

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2016年11月14日

『生き心地の良い町』(3)

 私の意見はさておき、本題に戻りましょう。
 同書には、すべて紹介してしまいたいくらい、ユニークなエピソードがいっぱい詰まっていいます。

 前回紹介した自殺予防因子「その一 いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい」という、いわゆる「多様性を重視する」傾向を伝える話としては、現在でいうところの中高を卒業した年頃の主に男子が入る江戸時代発祥の相互扶助組織についても書かれていました。

 こうした相互扶助組織はかつてあちこちに見られました。でも、他の地域は状況は旧海部町とはかなり事情が異なっています。簡単に言うと、他の地域では先輩後輩の上下関係が厳しかったり、さまざまな規則があったりするかなり窮屈な組織でした。

相互扶助組織の違い
 
 それを裏付けるものとして筆者が聞き取った他県にある同様の組織の元メンバーたちの意見として、次のようなものが載っています。

「入会してからの最初の三年間がいかに忍従の日々で合ったかを口々に語った。どのように理不尽な無いようであっても、先輩の言いつけにそむいたり対応できなかったりした場合には厳しい制裁が待っている。八〇歳代の元メンバーは、のちに軍隊に入ったときにむしろ楽に感じたほど、それほどまでに辛い日々だったと言いきった」(同書55~56ページ)

 対して旧海部町で今も盛んに活動を続けている相互扶助組織「同朋組」はまったく違います。年長者が年少者に服従を強いることは無く、たとえ年少者の意見であっても、妥当と判断されれば即採用されてきたそうです(53ページ)。
 会則と呼べるものは無きに等しく、入退会にまつわる定めも設けていないとのこと(43ページ)。

今につながる多様性重視

 このような素地が、たとえば旧海部村では特別支援学級の設置に異を唱えるというようなことにもつながっていると筆者は見ます。そしてある町会議員の次のような意見を紹介しています。

「他の生徒たちとの間に多少の違いがあるからといって、その子を押し出して別枠の中に囲い込む行為に賛成できないだけだ。世の中は多様な個性をもつ人たちでできている。ひとつのクラスの中に、いろんな個性があったほうがよいではないか」(46ページ)

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2016年11月28日

『生き心地の良い町』(4)

 前に紹介した5つの自殺予防因子の中で、どういうことなのかよく分からないものに「その四 『病』は市に出せ」があります。

 一言で言ってしまえば、「たいへんなことを一人で抱え込まない」ということのようです。
 病気はもちろんのこと、家庭内のトラブルや事業の不振、あらゆる問題を「公開の場に出せ」ということだそう。

 自分だけで抱え込まず「市に出せ」ば、「この薬が効くだの、あの医者が良いだのと、周囲が何かしら対処法を教えてくれる」(73ページ)というのです。

近隣地域との違い

 そして著者が海部町と対比させた自殺多発地域であるA町や近隣の地域とのさまざまな違いが述べられています。
 
 たとえばA町の高齢者は「迷惑」という言葉をよく口にしたと言います。

 そのことを著者は、隣人が常に支え合わなければ生活が成り立たなかった時代、「ひとたび援助を求めれば、相手はどんな無理をしてでも応えてくれることがわかっていたからこそ、かえって『助けてくれ』と軽々しくは言えなくなってしまったのではないか」(78ページ)と分析しています。

 また海部町と近隣地域でうつの受診率を比べた場合、海部町が最も高いということも確認されました。

 さらに海部町では「だれかがうつだ」という情報があると、「見にいてやらないかん!」(81ページ)と見舞いに行き、隣人に対して「あんた、うつになっとんと違うん」と面と向かって指摘することもめずらしくないそうで、この話を自殺多発地域のA町の住人人に話したところ、「ほないなこと、言うてもええんじゃねえ」と目を丸くしていたそうです(82ページ)。

済州島でのこと

 この話を読んで、私は以前、臨月間近の大きなお腹をした友人と一緒に韓国の済州島へ旅行したときのことを思い出しました。

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