2012年05月の一覧

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2012年05月09日

福祉から遠い国(2)

 その理由は、2月〜4月にかけて、うまく福祉につながることができず、命を落とす事件がいくつも報道されたからです。

 たとえば東京都立川心マンションで死後約二ヶ月がたった母親と息子の遺体が発見された事件がありました。
 報道によると、母親がくも膜下出血で倒れ、後に障害のある息子が食事も取れずに衰弱したということでした。
2人の身元確認 東京・立川の母子死亡 警視庁

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 立川市では、3月にもアパートの一室で高齢の母娘の遺体が見つかりました。
 2人の死因は不明。発見されたとき、死後1ヶ月前後で、母とみられる女性の胃は空っぽで、栄養不足だったそうです。
 母親は寝たきりで娘が介護していたことから、娘が先に死亡し、世話を受けられなくなった母親が衰弱死したという見方が強まりました。
(『東京新聞』2012年3月9日)

 同じ3月には埼玉県さいたま市のアパートで親子とみられる男女3人の死亡も報道されました。報道によると、親子の住む部屋の電気とガスは止められ、食糧や現金の蓄えはなく、餓死の疑いが強いとのことでした。
北区のアパートで3人死亡 餓死の可能性も

 さらに4月には東京昭島市の民家で女性ふたりが死亡しているのが見つかり、そのうちのひとりは低栄養症による肺炎で亡くなっていました。
東京・昭島の女性2人孤立死 1人の死因は低栄養症による肺炎

行政が相談に乗りながら起きた無理心中

 また「餓死による孤立死」 とは違いますが、4月には東京都江戸川区で「虐待の疑いあり」との通報を受け、区側が相談に乗りだしていたにもかかわらず、母親が9歳と7歳の子どもを道連れに無理心中を図るという痛ましい事件も起きています。
4人無理心中:一家のSOS生かせず 江戸川の民家

 もちろん、多くのケースを抱えながら懸命に対応している行政職員がいることを否定はしません。潤沢に資源があるわけではなく、人手不足や対応件数の増加などを受け、福祉行政がアップアップの状態という現実もあるでしょう。

 しかし、そうした事実を含めて「福祉から遠い国」であることは免れないと思います。

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2012年05月16日

福祉から遠い国(3)

 そのことを心底、実感したのが、「生活保護 福祉事務所に『警官OB』」という記事を見たときです(『東京新聞』2012年4月5日)。

 背景には、2010年度の生活保護不正受給件数が2万5000件と前年度比29%に膨らみ、総額約129億円という過去最悪の数字を記録したことがあるのかもしれませんが、生活保護費の実態をきちんと検討しているのかは疑問です。

 同記事によると、不正受給が増えているのは事実でも、10年度の生活保護費全体に占める割合は金額でわずか0.38%。
 近年は0.3%台で推移していて変化は少ないとのこと。

 また、記事中に登場する「全国公的扶助研究会」の渡辺潤事務局長は「不正受給とされたケースの中には子どものアルバイト代に深刻義務があることを知らなかったなど、故意ではないケースも多い」と訴え、福祉行政に詳しい弁護士は「まずはケースワーカーが現状では少なすぎる。きめ細かく対応できるよう適正な人数を配置するべきだ。悪質な不正は必ずしも多くない。そのつど、警察と連絡を取り合えば十分だ」と提言しています。

生活保護受給の高い壁

 それでなくとも、すでに生活保護の受給には高い壁があります。

 今年1月、札幌市で40代の姉妹が餓死したケースでは、姉が3度も生活保護の相談に訪れていました。しかし、申請には至らなかったのです(姉が病死し知的障害のある妹も凍死体で発見 「生活苦しい」と区役所に3回相談 札幌市白石区)。
 
 相談窓口でどんなやりとりが行われていたのかはっきりしたことはわかりませんが、少なくとも行政側は、生活保護を受けるよう、積極的には勧めようとはしなかったのではないでしょうか。

 地方の財政が厳しくなる中、どの自治体も生活保護受給者を少しでも減らそうとやっきになっています。「なるべく申請をさせない」「生活保護受給者を減らす」ことが数値目標化され、「それが職員の出世と関連する」とまことしやかに語られている自治体もあるほどです。

私も耳にした申請受け取り拒否

 私自身、ホームレス問題の取材や相談の場で、「水際作戦」と呼ばれる「生活保護申請の受付窓口である保護申請の受け取り拒否について何度も耳にしました。

 決死の覚悟で受給申請に行った方が、窓口の職員からぞんざいな扱いを受けたり、「なぜ働こうとしないの?」「真剣に仕事を探してるの?」など、侮蔑の言葉を投げつけられ、「あんな思いをしてまで生活保護の申請などしたくない」と話していたこともありました。

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2012年05月24日

福祉から遠い国(4)

 そもそもどうして生活保護受給者がこんなにも増えたのでしょうか。

 厚生労働省の発表によると、今年2月の生活保護受給者数は前月に比べ5499人増の209万7401人、受給世帯数は同4483世帯増の152万1484世帯。どちらも過去最多を更新しました(2月の生活保護受給者数は209万7401人で過去最多を更新)。

 生活保護生体が急増しはじめたのは2009年度頃。前年の2008年はリーマンショックがあり、世界的な金融不安が起きた年でした。
 規制緩和などのいわゆる小泉改革によって、労働条件は悪化し、不安定雇用、生活困窮世帯が増え続けてきた中で景気が落ち込み、「派遣切り」が社会問題として大きく取り上げられた時期でもあります(生活保護世帯数と保護率の推移

生活困窮世帯が増えるのは当然

 大企業の国際競争力確保のため、多くの労働者の働く条件を安上がりになるよう抑えこみ、景気が後退しても大企業が受ける痛手を最小限にするために「調整弁」として大量の非正規社員をつくり出してきたのですから、景気が悪くなれば当然、失業者は増え、生活困窮世帯は増えます。

 そうやって企業負担を軽くし、その利幅を上げたツケを、ひとりひとりの国民が税金で支える社会保障として払っているのです。

命をもって社会構造のツケを払う

 また、ちょうど社会構造の変化が顕著になった頃から、14年連続で自殺者は年間3万人を超えています。

 全自殺者の約6割が無職(つまり失業状態)ということの問題点は、すでに言われているところですが、動機の最近の警察庁調査では就職活動がうまくいかなかったことを苦にした30歳未満の自殺の増加も指摘されています。

『東京新聞』(5月14日付)によると、遺書や遺族への聞き取りなどから分かったそうです。
 リーマンショック以前の2007年は60人、2008年は91人だったものが、09年に130人となり、以来、高止まりとなっているとのこと。

 つまり私たちは社会保障というお金としてだけでなく、かけがえのない命をもってして今の社会構造がもたらす負の部分へのツケを払っているわけです。

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2012年05月30日

福祉から遠い国(5)

 本来、負担を強いられた国民の怒りの矛先は、こうした社会構造をつくり、維持している人々(強者)へと向けられるべきですが、なかなかそうはなりません。

 ひとつつまずけば、すぐにも転げ落ちてしまう「すべり台社会」において、必死で手すりにしがみつき、それでも上を目指すことを強いられる世の中において、表に出せない鬱積した不満や怒りは、それをぶつけやすい弱い立場の人々へと向かいがちです。

 そして、強者は、その流れをつくるための仕掛けを用意することを怠りません。

ヒステリックな河本バッシング

 たとえば最近、人気お笑い芸人の河本準一さんの母親の年金受給問題が大きく取りざたされました。

 河本さんによれば、「自分の生活が苦しかった時代に母親が生活保護申請をしており、売れてからは母親への援助額を増やしたものの、年金の受給そのものが問題だという認識はなかった」とのこと(『毎日新聞』2012年5月29日)。

 もしそれが真実であるとするならば、責任を問われるべきは、きちんと受給者の生活環境や家族関係を把握せず、民法上の扶養義務規定を説明しなかった福祉事務所側のはずです。

 母親との関係も良好なのに、売れっ子芸人になった後も母親を扶養しなかったことは確かに問題です。しかし、そうだとしても、河本さんがあれほどにまでバッシングされ、そして世間がここまで大騒ぎする必要があるでしょうか? 

仕組まれた事件?

 ヒステリックに河本バッシングに走るマスコミ、「待ってました」とばかりに応じる政府。その「出来レース」のようなやり方を見ていると、どうしても年金受給者を減らしたい政府とその政府にすり寄りたい人間がリークし、仕組んだ事件という気がしてなりません。

 そうでなければ、金額的にみればほんのわずかで、しかも受給者が無自覚である場合が多い年金の不正受給について、「問題だ」「問題だ」と政府が煽っているこのタイミングで(『福祉から遠い国』(3)参照)、こんな格好のターゲットが見つかるとは思えないのです。

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