2010年10月の一覧

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2010年10月01日

真夏の怪(2)

 5月頃からずっーと報道を独占していた力士による野球賭博問題も疑問がいっぱいでした。
 70人近い親方や力士が賭博行為に関わっていたとされ、現役力士が解雇されるほどの事件へと発展しました。

 でも、ちょっとまって。
 ギャンブル依存の方とお会いすることも少なくない立場としては、どうもストンと腑に落ちないことがいろいろあります。

 刑法では賭博は禁じられています。それなのに、どうして競馬やサッカーくじ、パチンコなどのギャンブルはOKなのに、野球賭博はダメなんでしょうか。

 賭博の歴史に詳しいある学識経験者は、現在の賭博の在り方を批判しつつ「禁止の『健全な勤労意欲を失わせる』という理由に対し、公営ギャンブルは『国がコントロールしている』『ガス抜き的な娯楽の提供』からよいとされている」(『東京新聞』(2010年7月10日付け)と語っています。

 また、公営ではないパチンコがグレーゾーンとして許されているのは、「警察の管理下にあるから」(同)だそう。

 そんな説明を聞いて「ますますもって納得いかない」と思うのは、私だけでしょうか?

 もっと言えば、日本政府が推奨し、政府のコントロールが効かないマネーゲームーー株式投資やデリバティブなどーーは、健全な勤労意欲を失わせるものとはカウントされないのでしょうか。

常笑野球はいいこと?

 それから、常笑野球。埼玉県代表となった高校が有名? ですが、今年の夏の甲子園ではけっこうあちこちの高校が「常に笑う」プレーに取り組んでいたようです。

 たぶん本来は「前向きに楽しみながら野球をしよう」という考えから生まれたのでしょう。その意見には大賛成です。

 でも、ミスっても笑う、負けても笑顔というのは・・・どうでしょう。アナウンサーが「気持ちの良い笑顔」と、さかんに言っていましたが、私はどうも違和感を禁じ得ませんでした。

「うまくいけばはしゃぎ、楽しければ笑う」というのは人間として当然のふるまいです。そして、それと同じように「失敗したら悔しがり、負けたら泣く」のも当たり前。そのときの感情を適切に感じ、表現するということは、人が人らしく、健康に生きていくためにとても大切なことです。

カウンセリングの場で

 これも、カウンセリングの場での話ですが、多くの方が「いつもポジティブでいたいんです」「つらい出来事があって落ち込んでいる自分をどうにかしたいんです」とおっしゃいます。
 でも、それはかなりへんな話です。

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2010年10月08日

真夏の怪(3)

 つらい出来事に遭遇したときに、落ち込むのは自然な心の働きです。
仕事で失敗したり、失恋したり、大事な人を亡くしたりしたときに、ネガティブになってしまうのも、心がきちんと働いている証拠。気分には波があって当然です。それが生きているということなのです。

 もし、どんなにことがあっても落ち込むことなく、常に前向きでいられたとしたら、私たち人間はどうなるでしょうか。
 
 たとえば、上司から人格を否定するような言葉を投げつけられたり、一生懸命働いてきたのに期限付きでクビを切られたり、非正規雇用ということで正社員からぞんざいな扱いを受けたりしても、そんな現実をただただ受け入れて、前向きに生きられることは本当に幸せでしょうか。   

 気持ちが落ち込んだり、怒りを感じたり、快・不快を感じ分けたりできるから、私たちは自分の身を守ったり、理不尽な状況を変えようと立ち向かうこともできます。
 悲しみや怒りなど、一見、マイナスに思える感情も、私たちの人生をよりよく変えていくためにはとても必要なものなのです。

思い出す『心のノート』

「いつも前向きで行こう」というかけ声は、かつて文部科学省が「子どもの心を耕し、豊にする」として作成した『心のノート』を思い出させます。つい最近、あの事業仕分けで「ムダ」と指摘されたノートです。

 ノートは、小学校低学年版と中学年版、高学年版、中学生版と4つあるのですが、たとえば低学年用には「あかるい 気持ちで」という塗り絵をするページがありました。

そのページには、たくさんの風船が結ばれた気球のイラストがあり、
「きょうは どんな 一日だったかな。あかるい 気持ちで たのしく いっしょうけんめいにすごせた 一日だったら 気きゅうのふうせんに 青い いろをぬろう。もう すこしだったなと おもう日には きいろい いろを ぬろう」
と書かれています。

 もし、ノートに向かった子の一日が青にも黄色にも塗れないほど辛いものだったらどうするのでしょう。仕事に忙殺されたお父さんが大事な約束を忘れていたり、すれ違いの夫婦生活にイライラするお母さんに怒られたりして、とっても悲しい朝を迎えた日だったら、子どもはいったい何色に風船を塗ればいいのでしょうか。

心を変えることで現実問題を温存する

 たぶん、素直な子どもは困って、少し迷い「なるべく青で塗れるように」と、明るい気持ちでいられるようにと頑張るはずです。「青く塗れないのは頑張りが足りないせいだ」と考え、辛いことは極力、考えないようにして、現実は横に置き、一生懸命楽しくすごそうと努力することでしょう。

『心のノート』には、こうしたしかけがたくさん詰まっていました。現実の問題を見据えて批判したり、合理的に考えたりするのではなく、すべてを“心の問題”にすり替えていく仕組みがそこかしこにあったのです。

 どんな辛い現実も「そう感じるのは心の問題なんだ。心を変えればハッピーに生きられるんだ」と、“現実の問題(環境や社会の問題)”を“心の問題(個人の問題)”として、「おかしいことを『おかしい』と感じる心の方(個人)を変えていくことで、解決すべき現実(環境や社会)を温存する」――そんな役割を果たすべくつくられたノートのように、私には感じられました。

こんなノートをつくって小さな頃から「あるべき心」を埋め込もうとする文部科学省に、さらにはその作成の立役者が高名な心理学者であることに、猛烈に腹が立ったことを覚えています。

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2010年10月18日

真夏の怪(4)

 閑話休題。
 ところで笑顔と言えば、今、さかんに行われている「自殺予防としての笑顔」の奨励についても、なんだか違和感がいっぱいです。

 情報番組などでも、「笑顔でやると仕事や家事の能率も上がる」とか、「笑顔でいると脳がだまされて幸せな気分になれる」などといい、その検証を行う番組などもよく放映されています。
 自殺予防のための自治体セミナーなどでは「笑いでうつを予防する」などという講習も行われています。

 こうした取り組みのすべてを否定するつもりは、もちろんありません。それどころか、笑顔をつくったり、意図的に笑うことで幸せになることができるならば、そんな簡単なことはない! とも思います(カウンセリングの場では意図的に笑うことさえもできない方がいらっしゃるのは事実ですが・・・)。

 でも、あまりにも「自殺予防には笑いが一番!」と喧伝されてしまうと、「それはなんか違うでしょ」と言いたくなってしまうのです。

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自殺者が12年連続で3万人超
 
 日本の自殺者は12年連続で3万人を超えました。
 
 2009年の自殺者数は2年ぶりの増加で前年比596人増の3万2845人。40~60歳代男性の自殺が多く自殺者全体の40.8%を占め、職業別では「無職」が57.0%で最も多かったそうです[自殺者12年連続で3万人超=実態に応じた対策提唱−政府白書]。

 また、警察庁が発表した自殺の概要によると、原因・動機には「健康問題」が最も多かったものの、「経済・生活問題」が8377人となって前年比973人も増えたと言います。
 中でも増加したのは「生活苦」で、大幅増の1731人になったそうです。

 こうした事態を「個人が笑う」ことでどうにかしようとするのは、かなり無理があるとは思いませんか?

 90年代以降に顕著になった、自己決定と自己責任を全面に押し出した競争・格差社会が関係しているのはどう考えても明らかです。

190万人を突破した生活保護世帯

 確かに、2003年から2007年にかけては、わずかながら失業者数が減少したものの、自殺者数は減っていません。そこだけを見れば、「90年代後半のように自殺者数の動向は景気や失業者数とリンクするとは断言できない」とおっしゃる方がいるのも理解できます。

 しかし、2003年から2007年の間も、相変わらず不安定雇用が増え続け、労働条件は悪化の一途。生活保護世帯も増加の一途です。今年9月に厚生労働省が発表した集計によると、ついに生活保護世帯は190万人を突破し、これは戦後の混乱期(1955年度)以来の数字です。

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