2008年04月の一覧

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2008年04月07日

「人と生きる」ことを学ぶ学校(4)

 実はつい先日、「他者は自己の成功への妨害物として、他者への敵意を植え付けられた子ども」の影響を垣間見ることがありました。
 東京都杉並区でのことです。

今、杉並区では小学校の“荒れ”が問題になっています。
 授業妨害をするくらいは当たり前。下級生に鉄棒を突きつけて脅したり、街頭で消化器をばらまいたり、休日に校舎に入ってスプレーで落書きしたり、ドアを蹴り倒してガラスを粉々にしたりという事件も起きているそうです。

 ところが、こうした事件はなかなか表面化しません。
 日ごろは問題を起こしていても、保護者や見学者の前では“いい子”を演じられる子が多いためです。
 日常の音楽の授業は成り立たないのに、合唱コンクールなどでは見事にピアノやウ゛ァイオリン弾きこなしたりするのだそうです。

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心が磨耗した子ども

 事件の中心にいるのは、成績がトップクラスの、わりと裕福な家庭の子であることが多いといいます。 
 長く小学校で教えてきた教師は、その原因をこんなふうに話していました。

「席やクラス編成まで成績ごとに分けられる塾で、毎日遅くまで勉強していたらストレスもたまる。競争によって子どもたちの心が摩耗してしまっている」

競争を助長する多くの「改革」

 杉並区では、現在三期目となる区長の旗振りの下、大手企業やメディアも巻き込み、競争を助長する多くの「改革」が断行されてきました。

 いくつか例を挙げると、学校選択制、学校運営協議会に人事権や運営権限まで持たせる地域運営学校、三菱総合研究所に1200万円でカリキュラム作成を委託した小中一貫校、行政の負担を保護者に担わせ、寄付金を呼び込む受け皿にもなるボランティア団体・学校支援本部の設置などです。

 競争が激化する中で、各学校は子どもがたくさん集まるような「良い学校」であることをアピールしようと、しのぎを削っています。
 競争的な「改革」が進む他の地域と同じように、子どもひとりひとりの思いや願いよりも、学校の体面や見かけの良さを宣伝することに必死になるようになったのです。

競争で勝ち上がった民間人校長

 こうした競争で勝ち上がったのが区立和田中学校(和田中)です。
 和田中は、リクルート出身の校長を登用し、「日本初の民間人校長のいる学校」として注目されました。

 民間人校長は、その職歴と人脈を活かし、著名人や芸能人による講演会や、外部の人や情報を取り入れて社会問題などを扱う「よのなか科」、英検講師が土曜日に授業する「英語アドベンチャーコース」など、今までの公教育ではとても出来ない特別授業で、保護者の気持ちをとらえ、多くの子どもを呼び込んできました。

 中でも話題になったのは今年1月に同区立和田中学校(和田中)ではじまった大手進学塾・SAPIXと提携した有料の夜間授業「夜スペシャル」です。

注:文中の民間人校長は2008年3月末日で退任し、2008年4月からは別の民間人校長になっています

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2008年04月15日

「人と生きる」ことを学ぶ学校(5)

 今年1月26日にスタートした「夜スペシャル」は、「公立の学校が塾の力を借りて受験対策をする」というものです。

 授業は国語と数学が週に3日。放課後、夜6時半から塾講師と一緒に夕食を食べた後に始まり、10時には教室を出られるようにします。希望すれば土曜日の午前中には「オプション英語」も付けられます。
月謝は週3日で1万8000円、週4日で2万4000円と、「授業を担う塾での同じ内容の授業の半額」を売りにしています。

 対象は受験を控えた中学2年生で、受講生は20名弱。杉並区立和田中学校(和田中)校長の「学校の授業についていけない生徒にはむしろ負担になる。無理に参加しないで」(『朝日新聞』12月9日)、「意欲や力のある『ふきこぼれ』の生徒に対応する」(『東京新聞』12月11日)などという発言から、成績の良い子ども向けと分かります。

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憲法にも触れる行為

 企業が公立学校に入り込んで保護者から直接料金を徴収して利益を上げ、宣伝効果も上げる。望む授業を受けるために保護者が特別料金を支払う。
ーーこうしたことは、憲法にも保障された「教育の無償制」や「教育の機会均等」を揺るがす行為です。
 
 実際に、多くの批判も上がっています。
 しかし、校長と杉並区は「『夜スペシャル』は、地域のボランティアが行う『学校の教育活動ではない活動』であり、料金も安く設定されており、企業の利益にはならない」としてすり抜けてしまいました。

本当に学校の教育活動ではないのか

 しかし、実際はかなり疑問です。
 まず何よりも子どもや保護者にとって「夜スペシャル」が「学校の教育活動外」に見えるでしょうか?

 「夜スペシャル」開始前後には、連日のように校長がマスコミに登場しては「和田中の新しい取り組み」として宣伝していました。校長と和田中PTA広報がつくるホームページでは、校長名で「夜スペシャル」への参加生徒も募っています。

 さらに校長は、「公立校が特定の塾の講師を招いて、一部の子ども向けに有料の授業をするわけにはいかない。だから、和田中を支援するボランティア組織『地域本部』が主催する」(『朝日新聞』2008年2月3日)とも言っています。

本当に「夜スペシャル」の料金は実費程度?

 「実費程度の授業料」について。ある地域住民が、SAPIXの通常授業と「夜スペシャル」の授業の分単位の料金を試算したところ、「夜スペシャル」の授業料はSAPIXの通常の授業料から消費税5%分を引いた金額に過ぎないということが分かりました。

 「月謝が半額なのは、施設費などは杉並区が持ち、雑事をボランティア組織である地域本部が引き受けているからです。通常のSAPIX料金と比べて値引きが大きい教材費は、『学校と塾が協同開発』するそうですが、その著作権は塾側にあるという話も聞きました。そうやって著作権を渡すことで教材費の穴埋めしているのでは?」(地域住民)

 地域本部(区では学校支援本部と呼ぶ)の予算も、もちろん税金です。

 一度は疑義を唱えた東京都教育委員会もこの説明に納得し、「学校の教育活動外であり、生徒の学力向上という公共の利益のためのものであることは明確」と、スタート直前の1月24日に「夜スペシャル」容認しました。

注:文中の民間人校長は2008年3月末日で退任し、2008年4月からは別の民間人校長になっています

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2008年04月24日

「人と生きる」ことを学ぶ学校(6)

「東京での公立校との連携を地方進出の足がかりにしたい」(SAPIX中学部・高等部の高橋光代表・『AERA』2008年1月28日号)
 塾にとって、設備投資が抑えられる公立校との提携は願ってもいない話です。

 しかも、今回の和田中のように、話題性のある学校と組めばほうっておいてもマスコミが取り上げてくれます。連日の報道を見て、「初めてSAPIXの名を知った」人も少なくないはずです。

夜間塾は「公平」な教育機会の提供?

 和田中の前校長は「教師の負担が多きすぎるから外部の力を呼び込む」と、新聞等で発言しています。
 また、公立校が塾と提携することへの批判に対しては、和田中PTA広報と一緒につくっているホームページ上で以下のように述べています。

「子どもに100万円単位のお金をかけられない家庭では上位の高校にチャレンジすらできなかったが、和田中では月に一万円出せば上位校を受験するチカラがつく。これこそ、完全ではないが『公平』な教育機会の提供だ」

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前校長の考えを支持する行政とメディア

 驚いたことに、文部科学省もメディアも、こうした前校長を支持しています。

 昨年度の和田中学校運営協議会には、文科省初等中等教育局の人間が入っているし、今年度、文科省は50億円をかけて前校長が広める「学校支援地域本部事業」を全国に展開します。
 『朝日新聞』は「公教育の建前を並べるだけでは学力をめぐる保護者の焦りは消えない。お金のかかる私立学校や塾が現にあるのだから、ここは塾に行けない子への福音と考えたい」(「天声人語」2008年1月9日)とまで書いています。

 前校長の考えを支持する人々は、その発言の裏にある「競争教育によって生じた格差は正当である」という考えをも追認していることを忘れてはなりません。さらには「競争に勝つのは、いつも強者なのだ」ということを覆い隠そうとしていることも、きちんと認識しておく必要があります。

公教育が破壊される

 「教師が多忙」なのは本当ですが、その原因がどこにあるのかは、きちんと考えておかなければなりません。教師が人事考課と数値目標で徹底的に管理され、子どもと向き合うことをできなくさせられてきた現実を変えていくべきです。
 「学力低下」のいちばんの原因は、手足を縛られた教師が、目の前にいる子どもひとりひとりの状況に合わせた授業ができなくなってしまったことなのですから。

 さらには授業態度などを点数化した内申点を重視する受験体制や、大多数には最小限度の学びだけしか保障しないという偽りの「ゆとり教育」、個人を分断して差別・劣等感を植え付けるための習熟度別授業なども見直すべきです。

 事実をオブラートに包み、「少数の『役に立つ』エリートに手厚く、大多数にはそれなりに」という教育システムを着々とつくりあげてきた結果が、昨今の学力低下を招いたことは今や明白です。

 この根本的な部分にふたをして「教師は忙しいから、塾の手を借りる」というのは、公教育の破壊に他なりません。

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