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足立区独自の教育「改革」がもたらした学力テスト、そして学校選択性(学区制廃止)、生徒の質と数に合わせた予算配分。その結果として顕著になった学校間・子ども間の競争と序列、生徒の質や数に合わせた予算配分、あきらめる子どもの増加。

そこには、教育というものを「子どもを中心に考える」という姿勢が欠落しています。
そしてそれはそのまま、これから日本全体が進もうとしている教育「改革」の方向性と重なります。

だからこそ、足立区の不正問題が明るみになる前から、多くの人が今年4月に行なわれた全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)に反対の声を挙げたのです。

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無頓着な教育行政

ところが、日本の教育行政はまったく無頓着です。全国学力テスト直前に話を聞いた文部科学省初等中等教育局教育学力調査室の担当官は次のように話していました。

「そういった話は私どもの耳には届いていません。しかし、もしそんな事態が起きているなら区教委が速やかに対処すべきです。競争の激化は私たちの望むところではありません。今回の調査においては競争の道具とならないよう、実施要項で不開示情報にするなど配慮しています。全国学力テストの目的は、あくまでも『児童生徒の学力・学習状況を調べ、各教育委員会や学校の問題を把握し、改善すること』です」(続く…

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教育行政の不勉強?

image070910.jpg もし、本当にそう信じているなら、文部科学省は大変な勉強不足です。
なぜなら、60年代の全国学力テストが二度実施されただけで中止となったのは、試験日に成績の悪い子を休ませたりするなどの不正があったためです。
「全員参加にした方が、より正しい学力や学校などが抱える問題を測ることができる」
というのは間違いだと言わざるを得ないことは歴史が証明しています。

そして、そのような過去の教訓を無視して全国学力テストの復活を公の立場で主張したのは、常々「国家の発展のための人材育成には競争意識を高めることが大事」と発言していた中山成彬文部科学大臣(当時)です。
その後、この発言を「待っていました」とばかりに内閣府に置かれた経済財政諮問会議(2005年)や規制改革・民間開放推進会議(2006年)などが「公教育への競争と選択の導入とセットで全国学力テストを行う必要性」を繰り返すようになります。

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競争激化は避けられない

ちなみに、これらの会議の構成メンバーは、政府の機能や公共の役割を後退させ、なんでも市場経済原理にゆだねることを「よし」とする学者や大企業のトップばかり。つまり経済活動を何よりも優先と考える人たちです。

アメリカやイギリスでの教育「改革」を見れば、そうした人たちの教育におけるねらいは明らかです。
競争を激化させ、国際社会で勝ち残ることができる企業の人材を確保するため、エリートにだけ手厚い予算配分を可能にする教育システムをつくること。そして、その他の子どもたちや子どもをエリートにするためにお金をいとわない保護者たちには、できるだけたくさんの教育サービスを買ってもらうことです。

たとえ文部科学省が本心から競争主義を排除したいと考えていたとしても、最も中枢の機関である内閣府が競争主義的な教育を応援しているのです。中途半端ななり方では、防ぎようはないでしょう。

結果を不開示情報にしても効果はない

テスト結果を不開示情報にするくらいでは、競争を抑える効果はまったく期待できないのです。何しろ「住民に公開を問われた際の判断は、ぞれぞれの自治体に委ねる」(文部科学省)ことになっています。

学力低下を気にかけ、学力向上のために運動会なども無くすべきだとまで主張する保護者が増える昨今、多くの自治体で公開を迫る住民が出てくることは必至です。
今年二月には、大阪府枚方市で、市が実施した学力テストの学校ごとの結果を公表するよう促す大阪高等裁判所の判決も出ています。(続く…

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こうして改めて見てみると、文部科学省は、長年、教育行政に取り組んできた自らの立場を守るため、本音と建前を使い分けながら、競争を推進する教育「改革」の要となることができる道を探っているかのように見えます。

その立場上、文部科学省はさすがに「競争によって学力の向上を図る」とは公言できません。しかし、経済界がリードし、内閣府が進める教育「改革」の流れに逆らうこともできません。
そのために考え出した策が、全国学力テストを行なって、その結果を検証し、地方行政と学校運営をコントロールするという方法だったのではないでしょうか。

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私と話したときにも文部科学省の担当官は「学力問題解決のためにPDCAサイクルというマネジメントサイクルを確立していく」と、はっきり語っていました。
そして、実際、今回学力テスト不正問題の起きた東京都足立区で、大手企業を参入しての「マネジメントサイクルに基づく戦略的な学校経営の調査・研究」を行なっています。

個々の学校における教育活動の成果が測定できなければサイクルは動きません。だから文科省は抽出ではなく「全員参加」の学力テストにこだわるのです。

品物のように管理される子ども

ここで気をつけておきたいのは、このマネジメントサイクルが、元々は「企業が製品の品質向上や経費削減のために用いてきた経営改善手法」であることです。

そんな手法が学校教育に導入されれば、子どもは品物のように管理され、品質向上のために競わされ、トップ(内閣府と経済界)が望む品質を持った子どもを集めることができる学校に多くの予算配分がされるようになります。

そうなれば、トップにとって市場価値の低い子ども、いわゆる“できが悪い”と見なされた子どもが、どんなふうに遇されることになるかは、火を見るより明らかです。
そして、一個の人間としてきちんと向き合ってもらうことができず、自分という人間に価値を見出すことができなくなってしまった子どもがどんなふうになっていくのかも・・・。(続く…

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