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「ゆとり教育」の実態を見てみると、その中身は子ども自身が持って生まれた能力を伸ばすことができる本当の「ゆとり教育」にはなっていません。

2005年当時に取材した教育行政学の専門家は、「ゆとり教育」をこんなふうに分析していました。

「日本の『ゆとり教育』とは、公教育費削減を実現するため『少数に厚く、残りの人には最小限にする教育』のこと。でも、そんなふうに言えば国民は賛成しないから、『ゆとり教育』という名前を付けただけ。少数の人だけを優遇する教育制度にしたのだから、全体的な学力が低下するのは当然」

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そう、「ゆとり教育」は、けして子どもひとりひとりの能力を伸ばすために行われたものではなかったのです。

さまざまな「改革」「改正」が進み、全国一斉学力テストも実施され、親と子どもの自己責任路線がいよいよ明確になった昨今。国の教育への介入は強まりながら、国が負担する教育費や責任は減っていく一方の教育現場を見ると、「ゆとり教育」の裏に何があったのか少しずつ見えてくる気がします。

実態をごまかす教育再生会議

そんな「ゆとり教育」の実態をごまかしながら、「『ゆとり教育』を見直す」と声高に叫ぶ教育再生会議。
その提言は、・授業時間数の10%増、・教科書の分量を増やし質を高める、・教師の事務仕事を簡素化し、教育現場のIT化を進めるなど、あまりにもお粗末です。
そんなことで子どもたち全体の学力が伸びるのかどうかは、このブログで前回のテーマにしていた愛知県犬山市の教育改革を見れば一目瞭然です。

子どもや教師の実態を見ずに、勝手に授業時間を減らし、内容を削減し、教師を管理することで教師と子どもが向き合えるような「ゆとり」を奪ってきた事実を反省するという姿勢はどこにも見あたりません。(続く…

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人格形成についても同様です。
第二次報告は、徳育や自然体験、職業体験を行うことで「命の尊さや自己・他者の理解、自己肯定感、働くことの意義、さらには社会の中で自分の役割を実感できるようになる」としていますが、本当にそうでしょうか?

確かに、自然体験や職業体験は、机にかじりついているよりも視野を広げ、見識を深めてくれることでしょう。「良いこと」と「悪いことを」を教えれば、善悪の区別はつくようになるでしょう。

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しかし、それだけで自己肯定感や自己・他者の理解、命の尊さなどが芽生えるのか。はたして「良いこと」を教えれば良い行いする子どもに育つのかは、はなはだ疑問と言わざるをえません。
自己肯定感や他者への共感が、「自分を受け入れてもらえた」経験の上に成り立っていることは、今や疑念の余地がないからです。

また、親に対しては「親の学びと子育てを応援する」として、「子どもの成長とともに学び、育児を通じて子どもがいる喜びを感じる」ようになれと言っています。
そして、親への提言の筆頭に「早寝早起き朝ご飯」などの生活習慣、挨拶やしつけを子どもに身につけさせることを挙げています。

もちろん、こうした生活習慣はとても大切です。挨拶も礼儀作法も身につけているにこしたことはありません。その内容自体はまったく間違ってはいないのです。

子育て不安を抱える親の増加

でも世の中には、たとえば深夜遅くまで働いていたり、片親家庭であったりして「もっと子どもに手をかけてあげたい」と思っていても、できない事情をかかえた親がいます。
一方で、食事の用意もしつけもほぼ完璧、教育熱心で子育てにも意欲的に見えながら、子どもの要求・欲求をきちんと受け止められない親がいます。一見、「子どものため」を考えているようでいながら、“愛情”で子どもを縛り、ダメにしてしまう親もいます。

だいたい今の親たちの多くは頑張りすぎるくらい頑張って子育てしています。自己決定と自己責任の重圧が増すなか、「人様に迷惑をかけない、きちんとした子どもに育てなければ」と賢明になっています。
そうした不安感が、どっしり構えて、子どもの育ちに合わせて見守ることを困難にしています。

以前、ある育児雑誌で「子どもに関する心配は何か」というアンケートを取ったことがありました。そのとき、男の子を持つ母親の心配事のトップは「子どもが犯罪者にならないか」でした。
また、ベネッセの教育開発研究センターによる子育て意識調査(『第3回 幼児の生活アンケート報告書 国内調査 乳幼児をもつ保護者を対象に』)では、「子どもが将来うまく育っていくかどうか心配になる」という否定的な感情がここ5年間で6.4ポイントも増えています。(続く…

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こうした親たちに「こうすべき」との提言を出し、マニュアル化した「子ども対応スキル」を説くことが有効だとはとても思えません。
提言を出されれば反対に「あれもこれもやらなくちゃ」と、親にさらなるプレッシャーや精神的ストレスを与えてしまうことにならうのではないでしょうか。

最近、長く子育て支援をしてきている方にこんな話を聞きました。

「今のお母さんは本当にまじめ。子どもがだれかに迷惑をかけないか、自分がきちんとした親をやれているかと心配ばかり。だからどうしても、子どもを制約することが多くなる。子どもにかけるセリフでいちばん多いのが『ダメ』という言葉」

確かに公園や電車の中で会うお母さんたちも、よく子どもを注意しています。「裸足になっちゃダメ」「他の人に迷惑をかけちゃダメ」「大きな声を出しちゃダメ」・・・。

でも、お母さんたちの気持ちも分かります。子育て中の友人が言っていました。

「だって日本社会って子どもや子ども連れに優しくない。子どもにもおとなと同じように振る舞うことを要求するでしょう?」(続く…

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子どもの心理的ニーズに応えることが重要

子どもの人格形成に有用なのは、その子どもが「今、必要としていること」(心理的ニーズ)に適切に応える「関わり」です。
身体的虐待などの目に見えやすい虐待よりも、心理的ニーズに応えない子育ての方が子どもより深刻なダメージを与えるとの研究結果もあります(1)身体的虐待、2)ネグレクト、3)心理的ニーズに応えないなど、五つの違う養育パターンの子どもを追跡調査した「Minnesota Mother Child Project」より)。

ところが、教育再生会議の報告は「どういう関わりが子どもの成長にポジティブな影響を与えるのか」についてはまったく触れていません。
「最新の脳科学や社会科学などの知見を踏まえた人格形成を目指す」と謳っているのに、最近の虐待研究やトラウマ研究、それらが脳に与える影響については、まったくと言っていいほど注目していないのです。

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最新の脳科学に基づく関わりは研究中

先日、教育再生会議の担当官に直接質問する機会がありました。担当官は、

「子育て講座などを通して、子どもに愛情を持って接するよう親に教えていく」

と繰り返していましたが、「子どもがきちんと成長できるような『愛情ある』関わり方とはどんなことを指すのですか?」という私の質問には、ついに答えてはくれませんでした。
「具体的なことは現在、研究中」(担当官)だからというのがその理由です。

そんないいい加減な「最新の脳科学や社会科学の知見」と偏った専門家からのヒアリングに基づいて、日常的な子どもへの関わり方にまで踏み込んだ提言が出されました。そして、その提言を“踏まえた”取り組みが始まろうとしています。

「親の期待に応えたい」と思いながら、そうできない自分を責める子どもたち。「子どもに良く育って欲しい」と願いながら、うまく関われない親たち。

その痛々しい現実を直視することなく、高みから政府首脳にとって都合の良い提言をする教育再生会議に憤りを感じずにはいられません。

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