2007年05月の一覧

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2007年05月07日

子どもの権利条約が生きた町(3)

 犬山で、まったくオリジナルの教育改革が始まったのは1997年。牽引役となったのは、その年に教育長に就任した瀬見井久さんでした。
「犬山の子は犬山で育てる」を合い言葉に、すべての子どもの人格形成と学力保障を実現するための改革を進めて来たのです。

 瀬見井さんが目指した改革は極めてシンプル。

「私が子どもであったとして、また教師であったとして、『通いたい学校』を追い求めることで、学校を教師自らの手で内側から変えてゆく自己改革」(『全国学力テスト、参加しません。犬山市教育委員会の選択』/明石書店刊・19ページ)です。

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 だから何より重んじたのは学校と教師の自立性。教育委員会は「徹底的に学校と教師をサポートする立場」に徹して来ました。教師が「教える喜び」を実感できなければ子どもが「学ぶ喜び」を感じることはできないと考えたのです。

「学ぶ喜び」が実感できる学校づくり

 子どもたちが「学ぶ喜び」を実感するめには、競争を煽るような授業・学校はマイナスです。その理由を犬山市教育委員会の方がこんなふうに説明してくれました。

「教育は人と人との関わり。学ぶ喜びを感じるためには、まず人と生きる喜びがなければなりません。それには、『だれかが教えてくれた』とか『一緒に何かをやり遂げた』などの体験が必要です。そしてその積み重ねが人格形成や学力保障に繋がります。競争という外からの刺激や教え込みによっては絶対にできないことです」

 そこで始まったのが、学校を協同・共生の場と位置づけて、子どもが豊かな人間関係の中で、「自ら学ぶ力」を育てる取り組みです。

 その核となっているのは少人数による「学び合い」の授業。競争主義的な教育改革を行っている自治体で広く採用されている「習熟度別」の少人数授業ではないところがポイントです。

犬山では、給食民営化で確保した約1億5千万円の市費で講師を雇用。段階的に人数を増やし(今年度は六七人)、講師を各学校の事情や要望に応じて加配しました。その結果、現在、市内14の小中学校のほとんどで約30人の少人数学級を実現し、4〜5人のグループ(班)学習も増えました。
 もちろん、学級編成の仕方やどんな学習でどんなふうにグループ学習を使うかなどの判断は、すべて現場に委ねられています。

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2007年05月11日

子どもの権利条約が生きた町(4)

image070511.jpg 例えば犬山で合った中学三年生の知子さん(仮名)のクラスでは、班を決めるのは子どもたち自身。出来る子だけ・出来ない子だけで固まらないよう話し合うので、かなり時間をかけて悩みながら決めるそうです。

 計算は早いけど、漢字は苦手な子もいます。勉強はイマイチだけれど、みんなの意見をまとめるのが上手な子もいます。お互いのことをよく知らなければ、班決めはできません。
「小学校の頃からみんなバンバン発言することに慣れているから」(知子さん)、議論が白熱することもしばしばだそう。
 
 知子さんは、班学習の効用をこんなふうに話します。

「苦手だった子でも同じ班になると自分との共通点が見えて仲良くなれたりする。クラスで浮いていた子も、班で助け合ってやっていくうちにいつの間にか他の子に合わせられるようになって浮かなくなる」

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 知子さんのクラスで班学習がよく行われるのは数学の授業。みんなで問題を解き、出来たら班長が先生に見せます。正解だったら、「あってたよ〜」と言って、分からない子に教えます。

「友達に教えると自分も勉強になるし、教えてもらうときは先生に言われるよりも素直に聞ける。何よりみんなで分かった方が楽しい。分からなくて取り残される子がいるのは可愛そう」(知子さん)

学校は楽しい

 クラス全体で行う一斉授業のときも、頭から先生が教えることはまずありません。先生が出したテーマについて、みんな次々と意見を出していきます。
 コの字型に机を並べた教室の真ん中に立った先生の役割は、たくさん出てくる意見を整理し、「どうしてそう思うの?」「他の意見は?」など、議論を深めるきっかけをつくるくらいです。

「意見がまとまりかけると、先生がそれをひっくりかえすような言葉をポンって出して、『う〜ん』ってまたみんなで考える。小学校の頃から『間違っちゃいけない』って雰囲気がない中で自由に発言してきたから、本当にたくさん意見が出る」(知子さん)

 小学校時代、知子さんのクラスではみんな「自主勉ノート」をつくっていました。読んで字の如く「自主的に勉強してつくったノート」です。
 子どもたちは、「明日はきっとこんなテーマで授業をするはず」と予測をたて、本やインターネットなどで調べて「自主勉ノート」にまとめて来ます。いわば、自主的な予習をしてくるのです。そして翌日はそのノートをもとに我先にと競って発言したのだそうです。

「強制されると嫌になるけど自分からする勉強は楽しい。部活は面白いし、友達はいるし、先生は話を聞いてくれる。学校に行くと落ち着く。たぶん『学校が楽しい』と思っている子はいっぱいいる」(知子さん)

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2007年05月22日

子どもの権利条約が生きた町(5)

 中学生の子どもを持ち、小学校で本の読み聞かせボランティアをしている母親は、改革が始まってからの子どもたちの変化をこんなふうに語ります。

「学校を休む子が本当に減りました。うちの子なんて夏休みになると『あ〜あ、学校がないからつまらない』と言ったりするんです。読み聞かせをしていても、年々、子どもたちの集中力が上がっているように思います。こちらがびっくりするような鋭い質問をする子も増えました」

「まだちょっと難しいかな?」と思う本を取り上げても、子どもたちは食い入るようなまなざしで真剣に聞き、読み聞かせが終わった後は、盛んに質問するそうです。

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「学び合い」の職員室

基準よりも多くの講師が加配されて行われる少人数の「学び合い」の授業は、子どもたちだけでなく教師にもさまざまな変化をもたらしました。

まず、一人ひとりの子どもに向けられる“おとなの目”が増えたことで、子どもとの会話が増えました。そして、複数のクラスに補助役が入ることによって、学年全体で授業の進め方や子どもの反応などを共有し、話し合う必要が生じました。
会議などのかしこまった席を設けるまでもなく、「こんなやり方をしたら子どもたちがみんな分かったよ」「今日○○ちゃんが元気無かったね」など、教師の間で日常的なやりとりが行われるようになり、職員室が「『学び合い』の職員室」へと変化していきました。

やがて教師の間に、私的なことも自由に話したり、相談し合ったりできる関係が出来てきて、自然と「みんなで一緒にやって行こう」「ゆったり子どもと向き合っていこう」という雰囲気が生まれました。

「教師が教える喜びを感じられるようになれば、子どもも学ぶ喜びを感じられるようになっていくのだということを実感しています」(犬山市の小学校教諭)

教師同士が助け合う

 職員室での日々の会話から犬山オリジナルの副教本(小学校の国語・算数・理科)がつくられ、各学校では現場の実態に合った評価カードや教材づくりなども始まりました。教師同士が気軽にお互いの授業を見学し合っては、いい点を共有したり、改善点をアドバイスしあったりするなど、助け合う風土も生まれました。

それは、競争的な教育「改革」を行なっている東京都某区で行なわれていた「教師バトル」(どちらの教師の授業が優れているのかを競い合う)とは180度違うものです。

そんな犬山に教員評価制度はありません。その理由を犬山市教育委員会の方はこう説明します。

「評価が処遇に結びつけられると、本来、子どもに向かうべき教師の視線が管理職に向いてしまう。それは子どもにとってマイナスです」

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2007年05月28日

子どもの権利条約が生きた町(6)

 数字でも、10年かけた改革の成果が現れてきています。
 学級崩壊や不登校は減少傾向。市が小中学校教師全員に行なった調査では、小学校で80.5%、中学校で60.7%の教師が「学習に対する興味や関心のある子が増えた」と答え、不登校の割合は全国の小学生が0.36%に対し、犬山は0.12%と三分の一の低さです。

さらに少人数の「学び合い」は、最近話題になっている小一問題(新1年生が「先生の話を聞けない」、「落ち着いて席に座っていられない」などで授業が成り立たない問題)への効果も期待できそうです。
昨年、初めて試験的に小学校1年生に少人数授業を導入した小学校の教師は言います。

「『先生といっぱい話せる』『先生が自分を見ていてくれる』と、思いの外、子どもたちが落ち着いたんです」

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学力もアップ

集中力や授業態度が落ち着き、自分から学ぶようになれば、当然、学力もアップします。

全国の多くの小中学校で実施している全国標準学力検査の結果を五段階評価で表したところ、全国に比べ犬山では1と2が少なく3と4が多いとの結果が出ました。
そう、出来る子と出来ない子の差が開き、学力の二極化が進んでいると言われる昨今、犬山では全体の学力のボトムアップが起こっているのです。

「勉強面では『〇〇ちゃんに教えてもらったからきっとできる』という自信が、勉強が不得意な子も積極的に取り組む姿勢につながりました。生活面では、たとえば暴力を振るった子がいたときに他の子が『そういうことはいけないよ』と注意し、注意された子が『そうだね』と受け入れられる素地をつくりました。そんな子どもたちを見ていて『勉強しなさい』『仲良くしなさい』と教え込む今までの指導がいかに無駄なことだったのかよく分かりました」(小学校の教師)

出来る子も出来ない子も対等になることができる「学び合い」は、子どもたちの生活のあらゆる場面に大きなプラスの影響を与えています。
 
犬山の教育を知るには

 子ども一人ひとりが主役になれる、一人ひとりが学ぶ喜びを実感できる犬山の教育。それを支えているのは、「子どもと教師の豊かな人間関係」です。犬山には、「おとなとの安心、安全、そして自由な関係性が、その子どもが持つ個性や能力を最大限に引き出す」という子どもの権利条約の精神が生きています。
 
 そんな犬山の教育実践を詳しく知りたい方は『全国学力テスト、参加しません。犬山市教育委員会の選択』(明石書店)を手に取ることをお勧めします。

また、事前の問い合わせや申し込みはは必要ですが、犬山市教育委員会では見学等の受け入れも積極的に行なっています。興味のある方はぜひ一度、足を運んでいただければと思っています。

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