自分らしい生き方とは
〜ワークライフバランスとメンタルヘルス

第4回うつ、心の病への理解を

うつ病患者100万人

うつ病や躁うつ病にかかる人が増えており、現在全国には100万人弱もいるとされる。長引く不況でリストラや給料ダウン、失業など、好転しない社会で生きる現代人にはストレスやプレッシャーが重くのしかかっている。

1996年には43万人だったうつ病患者は、1999年には44万人と横ばいだったが、その後2002年には70万人以上、リーマンショックの2008年には100万人を超えた(※1)。それに伴い、この間うつ病治療に使われる精神安定剤や睡眠薬の使用も上昇している。

2003年5月からグラクソ・スミスクラインがうつ病啓発キャンペーンを始めると、10月にはキャンペーンサイトへのアクセスが合計35万件を超えた。この頃から「うつ病は心の風邪」というキャッチフレーズとともに、誰にでもなる病気であるという情報が広く流れ始めた。

もともと日本では精神病に対する扱いは他の疾患と違ってオープンではなく、病気について広く情報交換も行われなかったため、家族にそのような症状があると家族の恥として隠したり、病院に行くのをためらったり勧めたりしない場合が少なくない。

インターネットの普及で以前よりは情報を得られやすくなり、都会では心の病でカウンセリングや精神科、心療内科に通う人は珍しくなくなったが、地方では総合病院に精神科がないところも多く、まだまだ心の病への理解度は相変わらず低い。

被災地で心の病の増加

被災地では、家族や家を亡くし、復興が進まない焦りや将来への不安などから、心の病を抱えている人が増えている。

福島県立医大が行った県民健康管理調査の「妊産婦に関する調査」では、福島の妊産婦の4人に1人にうつ傾向がうかがえると発表した。調査は震災前後に母子手帳を交付された約1万6000人(有効回答率55%)の県民を対象に、震災や原発事故が出産に与えた影響などについて聞いたところ、出生児のうち、早産や低出生体重児は全国水準と変わらず、母乳率も震災前後で変化はなかったが、「気分が沈む」「憂鬱な気持ちになる」などのうつ傾向は、震災前の3 倍の全県で27.1%と高く、検診を予定通り受けられなかった妊産婦ほど、うつ傾向が高く出ていた(※2)。

ただ出産するだけでも不安なのに、さらにいつまた爆発するかわからない原発への恐怖、空気中や食物に含まれる放射能による健康被害、いつになったら避難生活を終えて自宅に戻れるのか、安心・安全な環境になるのか見通しがつかない状況を考えれば、子どもを産み育てることへの不安は増幅され気分が重くなるのも当然だ。

母親のうつ症状が、生まれてくる赤ちゃんに何も影響を及ぼさないわけがない。出産後の子どもの生育に与える影響も計り知れないし、今後増える可能性も高い。しかし精神症状は他の病気と違って因果関係を明確にするのは難しい。

また、長期化する仮設住宅での暮らしでアルコール依存症の人も増えている。妻を亡くし職を失った中高年の1人暮らしの男性が、寂しさから朝から晩までお酒を飲み、眠れないために飲酒量が増えているという話をよく聴く。

アルコール依存症の治療に積極的に取り組んでいる東北会病院の石川達院長によると、震災前の平成22年度にこの病院でアルコール依存症と診断された患者は、月平均で23.8人。震災後の平成24年度では、月平均が28.7人と、およそ5人増えている。

阪神淡路大震災後に仮設住宅で孤独死した人のおよそ30%が、アルコールが原因の病気だったという調査結果もある。

震災による喪失感を 軽減して飲酒に頼る原因を減らすことが回復につながるが、病院での治療だけでなんとかなる問題ではない。復興のスピードをあげ、以前のように仕事をしながら暮らせる社会に戻すことが大切である。

大きな災害であればPTSDになる人は多く、眠れなくなる、何もやる気が出ない、普通の生活リズムで暮らせない、仕事中にフラッシュバックを起こして通常業務ができないといった症状が続く人もいる一方で、様々な思いを抱えていても、表面には出ずに暮らせる人もいる。

震災直後であれば心の不調は無理はないと理解される場合が多いが、 2年が過ぎた今、「いまだにそんなことを言っているのか」、「甘えている」と言われ辛い思いをしている人も少なくない。

腹痛や風邪といった病気でも個人差があるのに、心の病においては周りの理解が得られにくいことが、さらに事態を深刻にしている。

職場で問題になるメンタルヘルス

時間外労働やいくら働いても給料が増えない現実、いつ異動やリストラされるかという恐怖、パワハラ、劣悪な環境でも辞めると次の就職先が決まらないからと我慢を重ね、精神を病んでしまう人の増加も深刻である。

メンタルヘルスに問題を抱えているメンタルヘルス不調者は、6割弱の事業所でいるとされ、そのうちの3割強の事業所は、3年前に比べてその人数が増えており、その約4分の1が不調をきたして休職した後に退職をしていることが明らかになっている。(※3)

また、「心の病」で労災認定を受ける人は、3年連続で過去最多を更新し、2012年度は475人だった。発症原因は、「仕事内容や仕事量の変化」 が59人、「嫌がらせやいじめ、暴行を受けた」が55人、「悲惨な事故や災害を体験・目撃した」が51人、「上司とのトラブル」が35人。東日本大震災に 伴う精神疾患で認定された人も15人いた。(※4)心の病の労災認定は非常に難しく、職場での業務によって精神を病んでいる人は、その何倍、何十倍もいる と思われる。

心を病んで突然欠勤し仕事が滞ったり周囲の社員に迷惑がかからないよう、企業側も予防の取組を始めている。メンタル面から社員を支援する EAPプログラムを導入し、電話相談やカウンセリングルームの開設などで社員のメンタルへルスをケアしている企業も増えている。

しかし一方で、メンタルヘルスで休職・退職した人がいたのに、対策に取り組んでいない事業所も3分の1もある。

病んでしまった社員が出た後で外部の専門家にまかせればいいというものではない。職場環境や業務内容、人間関係、仕事の仕方などを分析し見直す必要がある。

最近は「新型うつ(非定型うつ)」という症状も出てきている。これは医学的に厳密な定義があるわけではないが、若者に多く、仕事や学業の困難なときだけ発症する軽症のうつで、自己中心的に映るためなかなか理解は得られにくい。

メンタルヘルス不調者が現れる原因として「本人の性格の問題」、次に「職場の人間関係」を挙げた企業が多い。

えてして日本社会では心の病気になると「自己管理ができていない」「甘えている」と病気になったほうが悪者にされがちだ。

多少の無理難題でも耐えつつ創意工夫で乗り越え、業務を遂行できる人間が有能とされる風潮があり、どんなに理不尽でも途中でギブアップする人間は弱い、負け犬と烙印を押され、病のせいで業務を中断すると個人の能力不足とされる。

内臓疾患であれば同情されても、心の病の場合、病気だと訴えにくいと同時に、訴えたとしても病気として理解してもらえないことも多い。

また一度、心療内科や精神科を受診したことで、「やっぱりあの人は心の病だったのか」というレッテルが貼られ、その後、症状が回復しても、常に心の病を抱える人というイメージを払拭できない人がいることも事実である。

職場で心の病が発症したなら個人の問題だけで片付けずに、上司の監督責任や業務プロセスのチェック、協力できる組織体制などを見直し、今後同じことが起こらないよう対策を考える必要があるが、それ以前に、日常的に問題をひとりで抱え込まないような風通しのよいコミュニケーションで予防できる体制をつくることが重要である。

業務後の飲みニケーションは全世代共通ではなくなった今、面と向かって話すよりメールの方が本音を出せるタイプの人もいる。業務とはいえ、効率重視の形式だけのやりとりだけではなく、人として互いの尊厳を大事にしたコミュニケーションが必要とされているのではないか。

心の重荷になることは、一人ひとり違って皆同じではない。

災害や親しい人の死は誰にでも起こりうることであるし、いくら能力があってもキャパオーバーの仕事を連日行えば、どんな人でも心にひずみができてしまう。1人が病んでしまうと、その人に関わる周囲の多く人に影響が出る。

ワークライフバランス を考えるうえで、心の病は誰でもかかる病気であるという理解のうえで、職場でも家庭でも共生できる人間関係づくりが非常に重要である。

2013/8/20

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